麗しの香道家は、傷心令嬢を甘く溺愛して離さない。

◇決意



『――後悔はしないように、な』


 お父さんと食事をしてから三日経った。私は、お父さんから言われた言葉を思い出し、お見合いをどうするかまだ決めかねていた。

 今までわがままを言ってきた分、親孝行のために縁談を受けるべきなんじゃないかと思う反面、今夢中になっている香道を辞めたくないと言う気持ち。どちらも大切で、手放したくない。


「だけど、どちらかを取るなら……縁談、だよね」


 もしこの縁談がうまくいって、結婚することになったら趣味である香道はやめなくてはいけない。それに、先生への思いが溢れる前に会わなくなる方がいいと思った。

 縁談がうまくいくかもわからないけど、私は先生が誘ってくれた香席を最後に教室を辞めよう……そう決意して、お父さんに答えを伝えるため書斎へ向かった。
< 88 / 222 >

この作品をシェア

pagetop