エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい

2.この気持ちは負けない

 九月といえどまだ日は長く、朝日が昇るのは早い。朝の五時でも部屋の中を照らす分には十分な明るさで、遮光カーテンの隙間から朝日がほんわかと差し込んでくる。


 喉の渇きで目が覚めた菜那は蒼司が起きないようそっとベッドを抜け出し、カーテンをしっかりと閉めた。そのまま足音を立てないようひっそりと寝室を出てリビングへ向かう。


(早く起きちゃったし、少し手の込んだ朝ごはんでも作ろう)


 妊娠七か月になり、日に日に大きくなっていくお腹が愛おしい。蒼司が仕事で部屋にこもってしまっている昼間は家事の合間に買ったベビー雑誌を読むことが最近のルーティンとなっていた。


(今日はモンティクリストを作ろうかな。スープは冷静ポタージュにしよう)


 一緒に住み始めたころ、蒼司に言われた一言がある。頑張りすぎなくていい、手抜きでいいんだと。その言葉は菜那にとって魔法の言葉ともいえるくらい、自分を救ってくれた言葉だ。蒼司の前では頑張りすぎないありのままの自分をさらけ出せていた。朝御飯は卵かけごはんの時だってあるし、晩御飯を作るのが辛いときは宅配サービスだって使っている。

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