エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい
「宇賀谷蒼司(うがやそうし)様でしょうか? カジハンドの堀川と申します」


「はい。宇賀谷です」


 ドクンと心臓が高鳴った。


 優しく微笑むこの笑顔にはしっかりと見覚えがある。二度も助けられている彼を忘れるはずがない。スーツ姿ではなく、今日はラフなトレーナー姿だがそれでも身長が高くてスタイルの良さがはっきりと分かる。


「あのっ、昨日の方、ですよね? 私、傘とジャケットをお借りしてしまっていて、あと滑った時も助けてもらってしまって、あぁっ、傘! 事務所に置いてきてしまいましたっ」


 早くお礼が伝えたくて焦って話す菜那のことを柔らかな視線で見つめてくる。緊張でますます口が早くなってしまった。


「本当にお見苦しい姿ばかりをみせてしまいっ、本日はしっかりやらせていただきますので、えっと、そのっ」


「ははっ、落ち着いてください。ゆっくりでいいですから」


 くしゃっと笑った蒼司の顔は少し子供っぽさが残っている。そのギャップのある笑顔にキュンっと胸が痛んだ。

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