完璧からはほど遠い
「はい、前はもっと古いアパートだったので、綺麗なところに住みたくて。使ってた家具をそのまま持ってきてるんですが、サイズ感は合ってないです。やっぱり違和感あるので、ちゃんと測って買うというのは正しいですよ」

 私は笑う。以前より広い部屋になったので、使っていた小さなローテーブルはどこか浮いている。余裕があれば買い換えたいなあ、とは思っていた。

 まあ確かに、家具屋に行くって結構労力使うから、後回しになる気持ちはわかるんだけどね。

 私は床に置いてある空っぽのタッパーたちをまとめていると、ソファにもたれて天井を眺めていた成瀬さんが思い出したように尋ねた。

「そういえば、あれどうなった?」

「え?」

「浮気した最低男」

 ああ、と声を漏らす。手を止めることなく、冷静に答えた。

「なんか連絡来てましたけど全部無視していました。そしたらぱったり来なくなりました」

「なんの連絡だっていうんだ? 復縁かな」

「違うと思います。どうも浮気相手の女の子と付き合ってるみたいなので」

 私が淡々と述べると、成瀬さんが勢いよく頭を起こした。目を真ん丸にして見ている。その表情がなんだか面白くて、私は笑ってしまった。

「多分、ですけどね。その浮気相手の女の子が、私に見えるように匂わせてきます。別にそんなことしなくてももう気にしてないのに」

 指導係でもあるので、高橋さんのデスクにはよく話に行く。そのとき、デスクの上にあるのは大和を連想させるものばかりだ。大和が好きだったキャラクターのボールペン、大和とお揃いのタンブラー、同じ色のマフラー。普通の人から見たらなんてことないものたちも、私だけは分かる。あれは大和と関係あるものだ、と。
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