完璧からはほど遠い

何かが変わる

「あーやっぱりうまい、もう一杯」

「ま、まだ食べるんですか……? 今日お昼もあんなに食べたのに」

「あ、無くなっちゃう?」

「いえ、鍋一杯に作ったので大丈夫です。成瀬さんに持って帰ってもらおうと思ってて」

「やった、二日目のカレーってまた美味いよね」

(頻繁にカレー食べてるけど飽きないんだろうか……)

 私たちは小さなテーブルを囲んで夕飯を食べていた。私は昼に美味しいパスタを食べすぎたせいかそれともこの環境のせいか、夕飯があまり進まなかった。そんな私をよそに、向こうはパクパクと胃袋に収めていく。どこに入ってるんだろう、あの量。

 何度も美味しいと連呼する成瀬さんに恐縮しつつ、私はゆっくり頬張っていた。

「あれ?」

「どうしました」

「あ、これ今日買ったお皿か」

 三度目のおかわりを無事平らげた成瀬さんは、空になったそれをみてようやく気付いたようだった。そう、成瀬さんが購入してくれたお皿二枚。本当に一緒に使うだなんて、あの時は思ってもなかった。

「今気づいたんですか?」

「はは、だってカレーに夢中だったしね」

「やっぱりこのお皿可愛いし使いやすいです、ありがとうございます」

「お礼を言うのはこっちだって。佐伯さんのおかげで出かけられて色々必要なもの買えたし、こんな美味しい出来立てカレーにもありつけたしさ。俺いいことだらけ」

 目を線にして笑う彼に小さく微笑み返した。成瀬さんは言う。

「また、買い物とか付き合ってくれる?」

「え!」

「じゃないと休みの日家から出られないんだよね」

「は、はいそれは全然大丈夫です!」

「よかった」

 社交辞令かもしれない、でも私には嬉しかった。たとえ買い物が目的でもカレーが目的でも、また出かける可能性があるのなら、少なくとも今日彼は退屈ではなかったんだろう。

 私が丁度食べ終えたところで、成瀬さんが時計を眺める。その行動を見て、私はすかさず言った。

「あ、あの食後のコーヒーとか」
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