僕の欲しい君の薬指


年齢は私より三つ下だから十六歳。温かい春の陽気に包まれ、桜が満開になったとニュースで取り上げられた日に彼は生まれた。赤ちゃんの彼を初めて見た時、天使って本当にいるんだなと幼いながらに思ったのを今でも覚えている。


成長するに従い、彼の秀でた才能や美しさは磨きのかかる一方で、周囲の大人達はお人形の様な見た目の彼にメロメロだったし、私だって彼を愛でる人間のうちの一人だった。



そんな彼が、狂気に染まったもう一つの貌を見せるようになったのはいつの事だっただろうか………。



「月弓ちゃん、鍵開けてくれる?」



私の部屋の扉の前、ドアノブに手を掛けた彼の声が溶ける。この子に知られる事を危惧して誰にも一切口を割らずにここへ引っ越したはずなのに、一番露呈したくないと思っていたこの子に何もかもを知られている。


頭を過る疑問の数がさっきから徐々に増えている。どうして私の住んでいるマンションを知っているの?それがまず一つ目の疑問。どうしてオートロックを突破できたの?これが二つ目。そして三つ目がどうして私の部屋の番号まで分かるのだろうかと云う疑問だ。

ここまでの道程の間、少しも迷う素振りが見られなかった。彼の歩みに躊躇もなかったし、まるで最初からここを目的地としていたかの様だ。平然と開錠を求める相手に恐怖心が増幅する。


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