『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす

俺の胸に手をついて、体を離そうとしていた彼女が急に大人しくなった。
それも、明らかに諦めたという感じではなくて……。

えっ……、これって錯覚じゃないよな？
いやいや、ありえない。
きっと夢に違いない。

だって、俺の体を抱き締め返して、俺の首筋に顔を埋めた。

俺、起きてるよな？
少し前に腕枕状態だった体勢を横向きに抱き寄せるみたいに変えたばかりだよな？

ってことは、芽依が寝ぼけてるのか？

軽く脳内がショートしたようで、状況を判断する能力が誤作動を起こしてるようだ。

彼女の背中を抱き締めてる手を、後ろ首を支えるように少しスライドさせて、腰を抱き寄せる手をほんの少し緩めた。
そして、ありったけの勇気を出して、顎を引くみたいに視線をゆっくりと落とす。

「………っ？！」

夢じゃない！！
芽依とバチっと視線が交わった。

しかも、すぐさま俺から離れようと両手を目一杯突き出して距離を取ろうと。
そうは行くか。
こんなチャンス逃がして堪るか。

がっちりと腰を抱き寄せる。
逃げ場などないんだと知らしめるかのように。

「お、…起きてたんですか？」
「……今、起きた」

本当は違うんだけど。

「朝ご飯の用意をして来るので、離して下さい」
「無理」
「……お手洗いに行きたいので、離して下さい」
「あと三分だけ」
「っ……」

さっきのは……。
俺に抱き締められたかったってこと？
いや、抱き締めたかったのか？
どっちでもそんなに変わらないか。

えっ、何。
俺、……脈ありなの？？

「三分経ちました。離して下さい」
「………ん」

ダメだ。
思考が追い付かない。