『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす



年末年始の連休も明け、また忙しい日常が始まった。

「副社長、十四時からの小渕薬品工業との打ち合わせですが、三十分ほど遅れると連絡が入りました」
「分かった」
「それから、福岡行きの航空券手配致しました」
「ありがとう」
「本当に同行しなくて宜しいのですか?」
「ん、大丈夫だよ」
「ですが……」
「……心配?」
「へ?……あ、いえ」

急に福岡便の往復航空券を手配してくれと朝一で指示を受けた。
福岡へ行くような業務は無いはずなのに。

「大丈夫だよ、心配しなくても。仕事で行くだけだから」
「……仕事ですか?」
「新事業?新プロジェクトとでも言っておこうかな」
「……そうですか」

今まで、一度も業務上で内容を伏せられたことが無い。
副社長付きの秘書なのだから当たり前なのに。
何故だろう?
明らかに隠し事をされているみたいで、心がズキンと痛む。

「帰って来たらちゃんと話すから、少しだけ待ってくれる?」
「……はい」

私に業務内容に関して口を出す権利なんて最初から無い。
私は彼の仕事をサポートするのが仕事だ。

「明日の七時台の便なので、今夜荷物を纏めておきます」
「助かるよ」

会釈し、踵を返した、その時。

「芽依」

就業中なのに、下の名前で呼ばれた。
違和感を覚えながら、ゆっくりと振り返ると。

「芽依を裏切るようなことはしないから」

私が不安な表情をしてるのを気遣った言葉だ。

「……信じてます」

大丈夫。
二泊三日であっても、もう彼は女遊びをしないと言ってくれたもの。
私はその言葉を信じるしかない。

< 152 / 194 >

この作品をシェア

pagetop