『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
自宅へと帰宅して、どっと疲れが出た。
パーティードレスなら多少持っている。
一度も袖を通したことのないドレスとなると無理だけど、それなりに高価なものだってあるのに。
副社長の秘書として彼の横に立つなら、それなりの装いが必要なのかもしれない。
前回の創立記念パーティーは五年前。
だから、私が入社する以前に開かれている。
今年は創立百周年。
財政界や著名人も招待する予定だから、ビジネススーツというわけにはいかない。
彼の秘書として最後の大仕事。
それがお終われば、お役御免。
彼の前から姿を消す覚悟はできている。
「あの、……響さん」
「ん?」
「来週の金曜日、半日私にお時間頂けますか?」
「金曜?……半日?」
「はい。……スケジュールは調整してあります」
「え、何、サプライズデート?」
「……はい」
「え?………ホントに?」
「はい」
「フフッ、何だかよく分からないけど、いいよ。楽しみにしてる」
「ありがとうございます。では、お先にシャワーして休みますね」
「うん、おやすみ」
リビングで仕事を始めた彼に会釈し、浴室へと向かった。
洗面所のドアを閉め、胸に手を当てる。
これでいい。
最後に彼との想い出を……。
日に日に迫るXデー。
彼といられる日はあと一週間。
思い残すことのないように、瞬間を思いきり満喫しよう。
鏡に映る自分に何度も何度も言い聞かせた。