『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
どこにも行けないように、しっかり捕まえとけ

「副社長」
「おっ、来たか」
「遅くなって申し訳ありません」
「ん?……まだ十七時前だけど?」

仁科製薬の創立百周年記念パーティーが開かれる会場に到着すると、既に多くの出席者やスタッフがいた。
まだ十六時を少し回ったところだというのに。
開宴まで二時間もある。

「如月さん、ちょっといいかしら?」
「あ、はいっ」

専務秘書の岡本さんに呼ばれ、控室と書かれた部屋へと。

「祝電が沢山来てるんだけど、これを纏めて貰えるかしら?私、受付をしなければならなくて」
「はい、大丈夫ですよ」
「悪いわね」

円テーブルの上に山のように積み上げられた祝電。
さすが、仁科製薬。

大口の取引先とそれ以外に振り分けて、順序を決めないと。
読み上げるのは一部になるから、それ以外を会場の外に掲示して貰えるように手配しないとならない。

式典の祝電仕分けは何度もしたことがあるため、とりわけ困ることはない。
誰もいない控室で黙々と作業をしていると、部屋のドアがノックされた。

「はいっ」

ドアから現れたのは、響さん。

「やっと見つけた」
「お疲れ様です。何か私に御用ですか?」
「ん」

細身の三つ揃えのスーツを嫌味なく着こなし、私のドレスと同じカラーのネクタイとポケットチーフを挿している彼。
磨かれたダークブラウンの革靴がコツコツと音を立てて私へと近づいて来る。

「ちょっと、十分だけ時間貰える?」
「……はい」

私の手を掴んだ彼はゆっくりと歩き出し、他のスタッフの目を盗むようにしてエレベーターへと乗り込んだ。

「どこに行くんですか?」
「秘密♪」

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