『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす

ジャケットのポケットにあるスマホを取り出すと、如月から三十件近い着信とメールが。

『副社長っ!!』
「悪い……助けて」
『今どこにいるんですかっ?!』
「ホテルの部屋?……意識がない間に連れ込まれたっぽい」
『すぐ調べますっ!』

如月のことだから、すぐさまホテルのフロントに駆け込むだろう。
彼女が来るまでの間に、この女から少しでも離れたい。

感覚のない体を捻り、ファスナーを上げ、ベルトを締める。
体の限界のようだ。

火照る体。
朦朧とする脳。
それだけなら風邪の症状だと思えるが、もう一箇所……。

これ、完全に薬のせいだ。
あの白い錠剤、興奮剤のようだ。
気分的にそういう感覚に陥っていないのに、勝手に反応を示してる。

救いなのが、ボクサーパンツだということ。
体にフィットしていて、多少分かりにくくなっているはず。

こんなの状態、如月に見せたくないのに…。

回転するようにベットから転がり落ち、這うようにドアへと進む。
『女優』という地位だからか。
部屋が思ってた以上に広くて、ドアまでの距離が遠い。

手にしているスマホが震え出す。

『副社長、聞こえますか?』

スピーカー音にした状態で、スマホをドア目掛けて投げつけた。

ドアにぶつかり、スマホは衝撃で画面が外れたのを視界で捉えた、次の瞬間。
ドアが勢いよく開いた。

「副社長っ!」

ホテルのスタッフ二人と共に部屋に駆け込んで来た如月。
駆け寄った彼女は俺の体を支え、額に手を当てる。

「病院に行かれますか?」
「……いや、いい」
「ですが……」
「部屋……に…」
「……分かりました」

< 24 / 194 >

この作品をシェア

pagetop