『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす

井上さん(運転手)の車で納涼祭が開催されている会場へと向かう車内。

「テレビ各局と新聞社へのコメントは先に送ってあります」
「ん」
「本日は、何枚か写真撮影があるのみになっています」
「分かった」
「それと、お時間があるようでしたら、贈呈をお願いしたいと担当者から連絡が来ているのですが、如何なさいますか?」

大手製薬会社の『納涼祭』とあって、毎年テレビ局や新聞社の取材も併せて行われる。
これまで毎年納涼祭に参加しても、彼は最後までいたことがない。
滞在時間は長くて二時間。

沢山の来場者がいる分、気を遣うのは必至で。
彼目当てで近づいて来る人も少なくない。

彼曰く、納涼祭は社員のためだと言う。
一年に数回しかないイベントのうち、納涼祭は特に大きなイベントだ。
社員の家族も呼ぶことができ、日頃の感謝の意を込めて開催するのだから、と。

「贈呈は担当者に任せてくれ」
「……分かりました」

すぐさま担当者にメールを送る。
会場ですれ違いになる恐れもあり、それを防ぐためだ。

「なぁ、如月」
「はい」
「今年は花火があるんだっけ?」
「はい、ございます。昨年は風が強くて中止となりましたが、今年は天候もよく、先程実施の連絡が来ました」
「そうか」
「会場でご覧になりますか?」
「……どうしようか悩んでるところ」
「ご一緒に観覧されるご予定の方がいらっしゃるのであれば、場所をご用意致しますが」
「場所?」
「はい。お寛ぎ頂けるような場所で、花火がしっかりと観れる場所です」
「へぇ~そういう場所があるんだ」
「万が一の時のために、リサーチしておきました」
「フッ、相変わらず仕事の鬼だね」
「………すみません」

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