『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす

ぎゅっと目を瞑る彼女に、鮫島はキスをしようと顔を近づけた。

「んっ……ッん!?」
「………ふ、……く…社長?」

彼女の腕を掴んで離さない男。
二時間ほど前に俺らに挨拶をした、鮫島だった。

俺と如月が会場を後にし、テラスへと向かっていたのを尾行したようだ。
関係者以外立ち入り禁止区域なのに。

見合いでダメなら脅してでも彼女を手に入れようとし、無理やりキスしようとするとは。

完全に彼女にキスする気満々の鮫島の顎を掴み、俺がキスしてやった。
それも触れるだけでなく、舌も滑り込ませて。

「っんッ!!……なっ、何すんだよっ!」
「それはこっちの台詞だ」
「はぁ?」
「ここは関係者以外立ち入り禁止区域だし、彼女、俺のなんで。………彼女に気安く触んじゃねぇよっ!」
「っ……マジで、デキてんのかよっ!」
「だったら何だって言うんだよ」
「こいつの家がどんな家か、アンタとアンタの親知ってんのか?」
「当たり前だろ。三年もの間、採用してんだから。それも、社長の息子である副社長の秘書としてな」
「っ……」
「分かったらとっとと失せろ。今日のことは見なかったことにしてやる」
「くそっ」
「二度と彼女の前に現れんな」

鮫島は苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべ、その場を後にした。

「怪我は無いか?」
「……はい、すみません、ご迷惑をお掛けして」
「いや、それは構わないけど」
「本当にすみません……」
「ん、見せてみ?……少し赤くなってるな。ビール缶当てて冷やすといい」
「……すみません」
「もう謝らなくていいから。……ここ、座って?」

目尻に涙を溜め、申し訳なさそうな表情を浮かべる如月。
俺がしてやれることなんて、これくらいしかない。

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