『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす

俺は彼女が視線を泳がせたのを見逃さなかった。

「何か困ってることがあるなら、相談に乗るけど?」
「え?……あ、いえ、ありません」
「そう?」
「はい。では、金曜は定時でという事で。失礼致します」

机の上に置かれた珈琲を見つめる。
もう一カ月経ったのか。

彼女が月一で見合いをする日。
土日の日中に行われていたのが、このところ平日の夜が多い気がする。

土日にも接待や出張が入ることもあるから、もしかしたらそれを気遣って平日にしてるのだろうか?

ん?
あ、もしかして、見合い相手って、……あの鮫島じゃないよな?
一度断ってるし、まさかな。

けど、あの時の口ぶりからすると、親を丸め込んだら強引に進めようと出来なくはないような……。

**

竣工式が行われる新工場の最終チェックをするため、秘書の如月と共に工場へと足を運んだ。

「副社長、当日はサンプルを配るだけでなく、血圧や体脂肪や血糖値を調べるブースや献血車両を呼ぶというのは如何ですか?」
「おっ、それいいな。けど、今から間に合うか?」
「従来ですと一カ月前らしいんですけど、知り合いが赤十字に勤務してて、キャンセルになった団体があると昨日飲み会で言ってたんで、頼んでみましょうか?」
「頼めそうなら頼んでくれ。あれって、最低人数の目安あったよな」
「時間と人数が確かあったはずです」
「まぁ、来場者で無理なら、社員の健康管理も兼ねて俺らがすればいいか」
「そうですね」

新工場スタートアップの責任者の三友 優紀(三十六歳)から提案を受け、その場で指示を出す。

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