『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす

キサラギ製薬(うち)とはライバル会社である仁科製薬(彼の家)
彼に近づけば、嫌な印象を与えるのは必至で。
送り込まれた間者として扱われるだろうと思って、あえて近づくこともせずにいた。

家の権力を行使したら、知人にはなれたかもしれない。
けれど、そんなことして彼に迷惑をかけてしまうくらいなら、遠くから見てるだけで幸せだった。

それも、『求人』という画面を見るまでは。

大学三年の冬休み。
そろそろ進路も正式に固めようかと思っていた矢先。

『仁科製薬』のサイトで求人募集のページを見つけ、『秘書求人』というものがあるということを知った。
学部でも噂になっていて、彼は卒業後に親の会社に入り、家業を継ぐと。

だから、仁科製薬に就職したら、今の生活の延長戦があるかもしれないと思った。

幼い頃からありとあらゆる習い事して来て、それなりに勉強も出来る方だ。
彼のために培った技量なのだと思えば、『秘書』という職種も悪くないと思えた。

人生の分岐点であるセンター試験を無事乗り越えられたのは、彼のお陰だ。
あの日、階段から滑り落ちて大怪我をしていたら、別の人生を歩んでいたはずだもの。

だから、私はあの時、決意した。
これから先の人生は、彼の将来のために費やそうと。


私の初恋。
相手は親の会社のライバル会社の御曹司。
相容れない関係。

ダメもとで受けた入社試験。
まさか、合格するとは思わなかった。
不合格だとしても、系列の会社の研究員に応募しようと思っていた私に、神様が機会を与えてくれたと思った。

それがまさか、……彼付きの秘書になる日が訪れるなんて。

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