うた×バト〜思いは歌声にのせて〜
「えっと、その……私こそごめんなさい。休んでるところに……うるさかったよね?」

 申し訳なくてまた帽子を両手で掴んで顔を隠した。

「うるさくなんてないさ。むしろもっと聞いていたかったくらい。……俺、君の歌声好きだな」
「えっ⁉」

 思いもしなかった言葉に驚いて顔を上げた。
 だって、今私の歌声が好きって言った? 幻聴じゃないの⁉

 そしたら、木漏れ日に照らされたキラキラした笑顔に見下ろされる。

「あ、やっと顔上げてくれた」

 ニコッと笑った橘くんに胸がキュンとなる。
 男の子に失礼かもしれないけれど、かわいいって思っちゃった。

 橘くんは笑顔になると普段のクールな印象が嘘のように年相応に見える。
 その笑顔が画面越しじゃなくて生で、しかもこんなに間近で見られるなんてっ!

「あ、えっと……。わ、私! お兄ちゃん探してるところだったの! ごめんね!」

 言うが早いか、私は橘くんにもう一度謝って離れた。

「え? ちょっと待って、せめて名前くらい――」
「ごめんねー!」

 引き止められたけれど、私はとにかく謝りながら秘密の東屋を後にしたんだ。
< 10 / 181 >

この作品をシェア

pagetop