あなたの世界にいた私




「失礼します。雪乃ちゃん、気分どう?」





そう言って、
いつものように入ってきたのは私の主治医だ。




「もう大丈夫」





そう言ってるのに、
信じてないのか、
それとも仕事癖なのか、
私の手首を掴んで脈を測る。






「じゃあ、何かあったらすぐ呼んで」





「うん」





「ごゆっくり」





今度は私にではなく、
雪斗くんに向かってそう言って微笑んだ。






雪斗くんは、
それに応えるように浅く頭を下げた。









「…雪乃、あの人お父さんじゃないよね?」






「…?…違うよけど…







…どうして?」







「コート返してもらった日に、
お父さんって言ってたから」








雪斗くんにそう言われるまで、
全く覚えていなかった。








「あの人は、主治医の工藤優真先生。









…お父さんじゃないよ」





「…そっか…」






“お父さんじゃない”と言った瞬間、
雪斗くんは、
ほんの少しだけ悲しげな顔をした。











したんじゃなくて、私がさせたのかな。










「……私の両親はもういないの」







もう私には何も隠すものなんてない。







だから、雪斗くんが言ってくれたように、
私の世界を見せたいと思った。







私には、黙っている彼を笑顔にできない。











でも、
今の気持ちを素直に伝えることはできる。










「私は大丈夫だよ」





「え…?」









 



「…雪斗くんがいるから。






一人じゃないって言ってくれてありがとう」







「話してくれてありがとう」







雪斗くんは本当にいい人だと思った。








私が伝えた”ありがとう”を
”ありがとう”で返せる人だから。









「じゃあ、僕はそろそろ行くね」





「うん。頑張ってね」






「ありがとう。またね」







そう言って背中を向けて病室を出ていく彼に、言葉ではなく、手を振って”またね”と伝えた。









そして、一人には広くて、
静かな部屋でまたそっと目を閉じた。




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