夜空へ虹の架け橋を

「結弦とはいっぱい話せた?」


 美輝ががさがさとポテチの袋を開けながら言った。


「うん、でもふたりで話すのが随分懐かしい気がして緊張しちゃった。変だよね、毎日学校で会ってるのに」

「そんなことないよ。学校じゃないし、好きな人と知らない場所でふたりきりになれたらドキドキもするよ」

「じゃあ美輝はどうだった? 怜とふたりきりになれて、ドキドキした?」

「そ、そりゃ……多少は」


 赤くなってどもる美輝。

 いつもはお姉ちゃんみたいなのに、なんだかかわいい。


「美輝もそんな顔するんだね、ちょっと意外かも」


 高校三年間ずっと一緒なのに、まだまだ知らない美輝がいる。


「もう、やめてよ」


 照れ隠しなのか、美輝はポテチをがさっと手に取りもごもごと頬ばる。


「で、結弦とはどんなこと話したの?」

「うーん、田舎の星空とか小学校の頃の話とか、あと、わたしの未来の話かな」

「……未来の話って?」

「ほら、昼間の事故の件あったじゃない? 予言したわたしがエスパーだって話になって。そしたら結弦がね、琴音の未来を見て教えてって言うから、わたしピアノの先生になってるって言ったの」

「琴音の将来の夢だもんね」

「うん、つい自分の夢を話しちゃった。でね、わたし調子に乗っちゃって、結弦と結婚して家庭を築いてるって続けて言っちゃったの」


 美輝が「おぉっ」と感心したような声をあげる。


「そしたら結弦、急に様子がおかしくなっちゃって……。あぁ、やっぱりわたし重いこと言っちゃったかなあ、言っちゃったよねえ! ねえ、美輝!」


 美輝の浴衣に手を伸ばして、がくがくとその体を揺さぶる。

 思い出すと恥ずかしい。海辺の解放感というか、いい雰囲気が背中を押したとはいえ、あんなことよく言えたもんだ。


「ちょっと琴音、落ち着きなって」


 美輝はわたしの手を払って、肩がはだけて乱れていた浴衣を直しながら続けて言った。


「驚いただろうけど、きっと重いとは思ってないよ。でも、結弦の様子がおかしくなったって、どんなふうに?」


 浴衣をきちんと直した美輝は、少し真剣な目をしてわたしに訊ねた。


「うーん、怒ってたとかじゃないんだけど、なんか泣いてたように見えたんだよね。泣くほど重いのかなあ、わたしって」

「だからそうじゃないって。ほら、嬉しかったんじゃない? 琴音にそう言ってもらえてさ」


 そうなのかな?

 でも、こうして即答してもらえると少し安心する。


「結弦ってあんまり感情見せるタイプじゃないじゃん。きっと照れてるんだよ」


 美輝の言葉が嬉しい。

 わたしが落ち込まないように励ましてくれているのが伝わってくる。

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