その涙が、やさしい雨に変わるまで

11*その涙が、やさしい雨に変わるまで

「松田さーーーん! こっち、こっちーーー」
 人混みの向こうから大きく手を振って、春奈が三琴を呼んだ。
 七月某日のとある国際空港の出発ロビーにて、社を辞めた三琴はキャリーバッグをひとつ持ち、待ち合わせポイントを探していた。雑多な空港ターミナルビル内でうまく合流できるかどうか不安だったけれど、無事三琴は脩也一行を見つけることができた。

「もう、私、松田さんと一緒に仕事ができるって思うと、嬉しくって嬉しくって仕方ないんだぁ~」
と、再会早々、春名が三琴の手を取り、ぶんぶんと大きく振る。いかにも彼女らしい感情表現だ。
 その春奈のうしろにはニコニコ顔の脩也と、妻のはしゃぎ具合に困り顔の裕介がいる。
「おはようございます。今回は、シカゴプロジェクトのリクルートをありがとうございます」
 春奈との再会の洗礼を受けたあとで、あたらめて三琴は脩也に挨拶したのだった。


  †††

 デルリーン・リッツ&コートヤードの紫陽花の庭で瑞樹に菱刈の封筒を渡したあと、まっすぐ三琴は自宅を目指した。
 封筒と一緒に傘も瑞樹に渡してしまったから、雨を避けるためにできる限り地下街を通って帰宅した。
 途中でビニール傘を買ってもよかったのだが、そのときは雨に打たれたい気分だった。徹底的に失恋を味わうのだと、悲劇のヒロインになるのだと、あえて自分を痛めつける。そうすることで、次に向かうエネルギーになると思ったのだ。

 自宅に着けば、寒気がする。まだ正午前の時間であったが風呂に入り、体を温める。それでも肌寒いから、風邪を引いたのだと素直に認めた。
 風邪薬を飲んで、ベッドに潜る。薬が効いてきて、すぐに眠りに落ちた。
 瑞樹とのことに終止符を打てて恋愛のストレスから解放されたのもあれば、ここ二ヶ月の受付業務の心労も今になって出てきたようだ。ぐっすりと深く深く三琴は眠ったのであった。

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