ようこそ、むし屋へ    ~深山ほたるの初恋物語編~

日直ノスタルジー

 月日は流れ、ほたるは小学4年生になっていた。もう2学期。秋めいた昼休みは、暖かい日差しと涼しい風が合わさって心地よい。

「ほたる、今日一緒に帰ろ!」
「ほたるっち、放課後ウチに来ない? 一緒にクッキー作ろーよ」
「うん!」
 鉄棒でスカート周りをしてから、かっこよく着地しようとしたけれど、キュロットが手に巻き付いて、どしんっと地面へ尻もちをついてしまった。

「いてて」
「ほたるはどんくさいねぇ」
 ボーイッシュでクールで運動神経抜群の、同じクラスのさなえちゃんが呆れる。
 近くの硬い土を木の枝で掘っていた2組のももちゃんが「そういえば、ほたるっちのクッキーって、全部丸くなるよね。いろんな型で抜いてるのに」と笑う。

 気がつけば、ぼっちに悩んでいた1年生は遠い昔だった。あれから友達も沢山できた。特に、同じ1組の笹塚さなえちゃんと2組の萩原ももちゃんとは、ずっと仲がいい。二人とも、1年生の頃、同じクラスで、最初に話しかけてくれた女子だ。

 キーンコーンカーンコーン
「あ、予鈴」
「うわ~、2組次算数だよぉ」と、ももちゃんが顔をしかめる。
「ご愁傷様~」
 なむなむと、手を合わせるさなえちゃんを真似て、ほたるもなむなむした。
「ああ神よ、この薄情な二人に天罰を下したまえ」
 ももちゃんが呪いをかけている。
 ぼっちの頃は永遠だった昼休みが、今は一瞬で終わってしまう。

「いっそげー」
 校庭の中央でサッカーをしていた篤たちが、ボールを蹴りながら駆け戻って来る。

「ほたる、今日日直なの覚えてる?」
 すれ違い様に篤が言って、ほたるは「あっ」と声を上げた。
「忘れてた!」
「ずっとオレが黒板消してたから、日誌はほたるな」
 篤がにっと笑って、ほたるの頭をぽんと叩いて走り去っていく。

「ええ~」
 ほたるの不満に篤は手をひらひらさせた。
「まったく~」
 最近の篤は小学生の元気でやんちゃな男子そのものだ。前はもっと優等生で上品な男子だったのに。それでいて、相変わらず頭がいいのも納得がいかない。

「ごめん、あたし日直だから一緒には帰れなかった。クッキー作りも行けたら行くね」とほたるが手を合わせると、ももちゃんがにやにやする。
「いいなぁ、ほたるっちは」

「何が?」
「か、れ、し」

「はあ~~~??」
途端に顔がぼっと熱くなって「ぜんっぜん違うから」と両手をぶんぶん振り回す。

「もう照れちゃってぇ」と、ももちゃんはにんまり。
「本当に違うってば。篤はただの幼馴染みっていうか、親同士が仲良しなだけで」

「いいなぁ、篤君と幼馴染みなんて。篤君運動できて勉強できて、かっこよくて、みんなに優しいから、二組の恋バナでも絶対名前上がるもんねぇ。でも、ほたるっちのだから、あたしは諦めるよ」

「最近の篤はぜんっぜん優しくないよ。さっきだってあたしに日誌押し付けて」
 ちっちっち、わかってないなぁ。と、ももちゃん。
「篤君がちょっかい出すのは、ほたるっちだけ。つまり、ほたるっちはト・ク・ベ・ツ」

「だからぁ」
「はいはい。うちらも急がないと五時間目に遅れるよ」
 冷静なさなえちゃんがさっさと先を行くので「待ってー」と、ほたるもあとに続く。
 下駄箱で上履きに履き替えている時、さなえちゃんが「でもさ」とほたるに言った。
「うまく言えないんだけどさ、篤君となあなあな関係のままにはしない方がいい気がする。篤君、モテるのは事実だから」

 年の離れたお姉さんがいるせいか、さなえちゃんは、時々大人びたことを言う。その意味がわかるようでわからない。さなえちゃんのこういう名言みたいなの、かっこいいなぁと、ほたるは感心する。
 あたしもドライに「なあなあな関係」とか言ってみたい。
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