氷の魔術師は、自分よりも妹を優先する。~だから妹を傷つけるモノは死んでも許さない~

第23話、正妃の不審死で疑われるのは?②


 アリシアとホワイトの会話が終わり、彼女は二人に目を向ける。
 まさかホワイトがそんな二人を少しだけバカにしているだなんて気づかないまま、同時にその二人がホワイトに対して怒りを露わにしている事なんて、全く気付かなかった。

「あの、二人とも……どうかしましたか?」
「……いや、なんでもありません」
「うんうん、なんでもないよー」
「ん?」

 笑顔でそのように答える二人に違和感を覚えつつ、アリシアは首をかしげているのだった。

 ホワイトが周りを警戒している最中、アリシアはラフレシアが死んだと言う話に戻る。

「話は戻りますがベリーフ、リリスとファルマ殿下はその『占い師』が怪しいと思っているのですか?」
「え、あ……うん。リリスが言っていたんだけど、『同じ匂い』がしたんだって?」
「同じ匂い?」
「そう、僕たち、『悪魔《どうぞく》』の匂いさ」

 笑いながら答えるベリーフに対し、アリシアとレンディスは目を見開いた。
 つまり、ラフレシアの所に出入りしていた存在は、人間ではなく、リリスやベリーフのような、『悪魔』が絡んでいると言う話になる。
 それはそれで大問題だ。何せ『悪魔』と言う存在は滅多にこの世界には居ない。『悪魔』がこの世界に肉体を持ち、現れる事が出来るのはたった一つ。

 『召喚《サモン》』で悪魔を召喚するほか、彼らはこの世界に留まる事しかできないのだから。

「リリスはファルマに召喚されたから肉体を持つことが出来る。僕は元々『特別』だって言う事は以前話をしたよね?今の『悪魔《どうぞく》』は人間に魔力をもらわない限り、受肉する事が出来ない……僕たちと言う存在は大昔に神様を怒らせたことにより、この世界に留まる事は許されなくなってしまったから」
「ええ……有名な御伽話ですよね」

 遥か昔、悪魔と言う生き物もこの世界に力なしに存在する事が出来た。しかし、ある一人の悪魔がこの世界の創造神を怒らせてしまったことにより、悪魔はこの世界で魔力をもらわない限り、受肉する事が出来なくなってしまった。何故神様を怒らせてしまったのかは、御伽話では語られていない。
 しかし、目の前にいる悪魔――ベリーフは人の力も借りずにこの世界を生きている。何故なのか理由は聞いていないが、出会った頃に彼は『特別』だと言っていた。
 そんな『特別』である『悪魔』、ベリーフはフフっと笑いながら話を続ける。

「もし、その『占い師』が『悪魔《どうぞく》』ならば、黒幕が居るはず。ラフレシアを殺したがっていた奴がね」
「まぁ、一番疑われるのはきっと私かもしれないですけど」
「……アリシア様」
「冗談ですよ、レンディス様」
「いや、冗談でも笑えないよ、アリシア。現に王宮ではその話が出ているんだってリリスが言っていたよ。リリスは『バカらしい』って言ってたけど」

 あの悪魔はそのように言っているのかと思いながら、アリシアはため息を吐く。しかし、そのような話題が出るのは仕方がない。

「そもそも私の妹が第二王子であり、ラフレシアの息子、フィリップ殿下に婚約破棄され、しかもその後私はぶん殴ってますからね、おもいっきり」
「「……」」
「ね、そのような話が出ても不思議じゃないでしょう?」

 笑顔で答えるアリシアの姿に、レンディスとベリーフの二人は何も言えない。
 既に過去形になっているのだが、アリシアの妹、カトリーヌは卒業式の時に婚約破棄をされている。その目撃者はたくさんいる。その中でアリシアはフィリップを拳でぶん殴り、大けがをさせてしまった――大切な妹を侮辱した男は死んでも許さないのである。
 だからこそ、ラフレシアを殺す理由がある人物、重要人物であるのはアリシアなのだ。アリシアもそれをわかっていっている。
 だからこそ、アリシアは言う。

「そもそも婚約破棄から誰かが仕向けていたのかもしれないですね……何者かが」
「ええ、そこまで考えるのアリシア!」
「……しかし、ありえる話ではありますね」
「考えすぎだとありがたいんですけど……まぁ、私は考えるのが苦手なので、考えるより先に手が出てしまうので」
「けど、本当だったんだね。カトリーヌが婚約破棄されて王太子をアリシアがぶん殴ったって話……いやぁ、僕もフィリップバカ王子だから嫌いだったけど、うーん……」
「ベリーフ?」

 ふと、何かを考えるかのようにベリーフはアリシアとレンディスを見ている。深く考えるかのようにしているベリーフはそのままアリシアに思っていた言葉を口にする。

「けど、遠目から見てきた俺からすると、確かにバカ王子でわがままっぽい王子だったけど、カトリーヌの事は好きだったと思うんだよねぇ……表に出さないだけで。寧ろ、気に入った相手ならどんな手を使ってでも手に入れたいタイプみたいな感じだし」
「え、あのバカ王子そんなタイプだったんですか?もっと地獄見せればよかった」
「……アリシア様」

 しかし、ベリーフの言う通りだとアリシアは考える。
 確かにわがままでバカな王太子だとは思っていたのだが、それでも昔、カトリーヌと一緒にお茶をお菓子を食べながら会話をしている所を見た事はある。あの時のフィリップはとても可愛らしい笑顔を見せながら、カトリーヌと雑談していた。同時にアリシアはあの時、カトリーヌの事を大事に思ってくれているのだなと、その言葉が頭から過る。
 そもそもあの婚約の話も第二王子でありフィリップが言い出したことだと父親から聞いたことがある。勝手にエリザベートの事が好きになり、婚約破棄を言い出したののは本当にフィリップ自身なのだろうか?

「……レンディス様、少し手を握ってくれませんか?」
「え、は?」
「あ、すみません。深い意味はないんです。ただ、考えすぎて頭が痛くなりました……ちょっと温もりが欲しいです」
「……アリシア様」
「はい?」
「あなたは本当に、俺の心をかき乱しますね。一応俺も男だし、求婚した身だし……ああ、もう、はい、手です」
「ありがとうございます?」

 無表情だったレンディスの顔が一気に崩れ、頬が真っ赤に染まりながらもアリシアに手を伸ばしたレンディスに、アリシアは首をかしげる。そんな二人の様子をベリーフはブブっと笑っている姿があった。
 握りしめた手に、アリシアは考える頭を休めるために少し落ち付くために深呼吸をした後、ふと思った。

 ――確かに自分はレンディスに求婚を待っている身なのでは?と。

 自分の愚かな行動にアリシアは顔を真っ青にしながら、レンディスに視線を向けると、レンディスは変わらず、真っ赤な顔をしながら顔を背けている。いや、本当にごめんなさいと心の中で謝りながら、アリシアはベリーフに視線を向けると、レンディスとアリシアの見た事がない顔をしている事が楽しいのか、彼はいつも以上に笑っている。

「ブブッ、ちょ、レンディス、そんな顔するんだ!あはは!おかしぃ……アリシア、今頃気づいた?」
「……黙っていてくれると嬉しいんですけど、すみませんねぇ……ベリーフ、リリスとファルマ殿下から他に何か伝言を預かっていないですか?」
「とりあえずもしかしたら王宮で何かあるかもしれないから気を付けてって事と、グレートウルフの群れの討伐の件、聞いたんだけど」
「ええ、この森に現れるらしいので」
「うん、それなんだけど――」

「わんッ!!」

 ベリーフが何かを言いかけたその時、突然ホワイトが吠える。
 アリシアがホワイトの方に目を向けると、ホワイトは唸るようにある方向を睨みつけている。すぐさまその方向に視線を向けると、殺気のようなものが伝わってくる。
 森の奥から出てきた、複数の獣の匂い――アリシアはレンディスの手を放し、杖を構える。
 レンディスもすぐさまそれに気づき、長剣を構えた。

「……どうやら、向こうからお出ましみたいだね」

 そのように呟いたベリーフはフッと笑いながら、現れたグレートウルフを睨みつけた。
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