世界くんの想い人
「ちょ……っと……恥ずかしいじゃない」

「ふふっ、でもほんと素敵なご夫婦ですよね。で、さっきチラッと見えたんですけど、扉の外に梅将軍のお迎え来られてるみたいなので私先行きますね」

「えっ」

明菜はクスクス笑いながらトレンチコートを羽織ると見積課をあとにする。明菜と入れ替わりに直ぐに世界が見積課の扉から顔を出した。

「梅子さん、もう終わる?」

扉に身体を預けてこちらをみている世界の左手の薬指には私とおそろいの指輪が光る。

「えっと……もう終わるけど……どうしたの?今日接待じゃなかった?」

世界が私の隣の空席のままになっている自分が使っていたデスクに腰かける。

「梅子さんと帰りたくて、やっぱ断った」

「えっ!」

直ぐに世界が口を尖らせた。

「別に課長でも対応できるし。だって今日何の日?」

「え?……何の日?」

私はパソコンをシャットダウンしながら天井を仰ぐ。

(えっと……私の誕生日でもないし……世界くんの誕生日はクリスマスイブだし……)

「わかった?」

「えっと……」

「あ、その顔わかんないんすね」

世界が立ち上がると私を後ろから抱きしめる。そしてすぐに首筋がチクンとした。

「ばかっ!何すんのよっ、こ。こんな神聖なオフィスで……は、はしたないっ……」

「は?夜のオフィスとか神聖どころか卑猥な場所じゃないんすか」
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