元伯爵令嬢は乙女ゲームに参戦しました
「本日は王太子殿下より、お菓子を賜りました」

 胸のポケットより取り出したそれは、小さな小箱に入れられた花の砂糖漬けです。

「お一ついかがでしょうか?」

 そう申し上げ、そっと第二王子殿下の御目の前に差し出しますと、邪気の無い態度で無造作に砂糖漬けを掴み取られました。
 そして、あー、と喃語のような意味のない御言葉を発せられながら、嬉しそうにその砂糖漬けを眺めていらっしゃいます。
 私はその御姿を確認し、ゆっくりと扉に向かいました。重い扉を開け、最後にと、もう一度振り返ったところ、第二王子殿下と目が合ったのです。

 久しぶりに拝見するその御目は、とても穏やかに世界の色を映しておりました。
 ああ、この御方は、やはり狂ってなどいなかったのです。
 同じ歳、同じ日の、今日のこの時を、ただただ静かに、迎えたかっただけなのでしょう。
 三年振りのその御姿に、私は深々と頭を下げ、そっと扉を閉めました。
 石段を一つ上る毎に、三年前の殿下の御言葉が思い出されます。あの日、第二王子殿下は今日と同じ御目でこう仰られたのです。

『もしも生まれ変われるのなら、今度はアンネローザと同じ歳に生まれて、一番に彼女へ求婚したいんだ』

 少しだけはにかまれた表情は、私が拝見した殿下の御顔の中でも一番年相応のものでした。
 だからこそ、彼の方と同じ歳になるまでは生きていたいのだと、笑う殿下が狂われているというのなら、その御言葉に涙した私もきっと狂っているのでしょう。
 願わくは、殿下の最後の想いが天に届きますようにと祈りました。そうして流れ落ちる涙もそのまま、私は最期の報告書をお渡しするために、王太子殿下の下へと足を進めたのでした。

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