来世なんていらない
「あんたの中で私を殺して。気なんか済まないと思う。何度殺しても。あんたの憎しみは消えないと思う。それでも、もうここに傷が増えないで済むなら。もし九条さんが私を許せる日が来たら…友達に…なろ」

「え…?」

「って、そんな虫のいい話、有り得ないか。ごめん、忘れて」

「千葉さん…なんで…」

「…私、美術が好きだった。でもね、中学で部活はなんとかやり抜いたけどやっぱ才能には勝てなくてさ。あの独特な絵の具の香りに包まれた空間で、才能人に囲まれてずっと居るとさ、気が狂いそうになった。なんで私には才能が無いのって。私に無いのは才能だけじゃなくて努力する勇気も無かったのに。いつも生まれ持った物を憎んで自分を保つしか無かった。だってこの人達は最初から持って生まれたんだからしょうがないじゃないって。そしたらだんだんと真っ白の新しいキャンバスやスケッチブックを見ても真っ黒にしか見えなくなってきてさ。私は絵が描けなくなった」

「私…なのに…千葉さんに酷いことお願いしちゃったんだね…」

「九条さんに指名された時、一瞬、本当にどうしようって思った。でも私も本当は変わっていくあんたを見て、どっかで早くしなきゃ一生あんたに謝れないって思ってたんだ。私、バカだからきっかけがないと動き出せない、ズルい人間なんだ。それで、参加することに決めて。授業以外で久しぶりに絵の具を触った。香りを嗅いだ。色と色が混ざっていくパレットが美しく見えた。九条さんのおかげ。ありがとう、また大切な物を思い出させてくれて」

「千葉さん…!」

「私に言ったよね。大切な物を守りたくて何が悪いのって。執着して何が悪いのって。九条さんの言う通りだよ。思い出させてくれてありがとう」

泣いてしまいそうだったから鼻で息を強めに吸った。
逆に鼻が痛くなった。

「じゃあまた眼の色出来たら見てよ」

「うん!」

「休憩、邪魔してごめんね」

千葉さんは体育館の中に戻っていった。

「友達になろう」、そう言ってくれた言葉を忘れてって彼女は言ったけれど、私は忘れない。
いつか本当になれなかったとしても、そう思ってくれた気持ちを忘れられるわけがない。

「もう友達でしょ」って言える勇気があれば、今すぐここでそうなれていたのに、私にはまだそれが出来なかった。

私は願う。
いつかきっとそうなれることを。
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