来世なんていらない
武田さんと真翔の目は似ている。
その目を見ていると誤魔化しが効かなくなる。
嘘なんかなんの意味も持たないこと。

そして多分、私の目も似ている。
だから真翔は私を見つけてくれたんだと思う。

武田さんが何を隠しているのか分からない。
でも、武田さんの目はよく知ってる。
鏡の中に何度も見た私の目だ。

奪われること。
認めてもらえないこと。
そこに存在しているのに、存在していないみたいな感覚。

他者を傷つけることで自分の存在を救いたい気持ちも分かる。
その人の価値観や尊厳を握っているんだと思えたら、自分の存在は確立されるだろう。

すごく、愚かなことだけど。

武田さんには伝わらないかもしれない。
解ってもらえないかもしれない。

それでも真翔は武田さんのことを信じてる。
私の知らない彼女を。

武田さんの存在を認めて、尊重して、信じたいって思ってる。

私はそれ以上何も言えなくて、二人に背を向けて校門を出た。

真翔も追ってはこなかった。

展望台を下りる時にメッセージアプリのIDと電話番号を交換した。
でも私は何も送らなかった。
真翔からもまだ何も送られてない。

武田さんが真翔に抱いている本当の感情はまだ分からない。

私が真翔の存在をお守りみたいに感じ始めてること。
そのことも言えないままだ。

言えないまま、武田さんの感情を理解するなんて無理だ。
明日になったらまた怖くなる。

明日になったら私はまた一人ぼっちだろうから。
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