雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
1 前夜



「――雪野の家に挨拶に行きたい」

帰国した創介さんが、改めてプロポーズをしてくれ日。私に言った。

「……そうですよね」

結婚するからには、それは避けては通れない儀式だ。

 創介さんとのことを母にきちんとは話せていなかった。

"付き合っている人がいる"ということはそれとなく伝えていた。でも、詳しくは話せなかった。言えなかったのだ。

 二年前に、創介さんと生きて行くことは決めていた。ただ、二年後の私たちがどういう状況に置かれているのかはっきりしていない中、母に余計な心配を掛けたくなかったのだ。

結婚のこと、母は何と言うだろう――。

「……雪野、どうした?」

つい考え込んでしまった私に、心配そうな声が飛んでくる。

「何でもないです。母と相談してみます」

ずっと傍にいると決めてから二年。そして、本当に結婚をすることになって。ここにたどり着くまでは、途方もなく遠い道のりに感じた。

きっと、これからが本当の意味で大変なのかもしれない――。

でも、するべきことは、目の前のハードルを一つ一つ越えて行くことだ。

「おまえの家に行くの、あの日以来だな……」

鋭い視線が、不意に揺れる。

あの日――。

別れを決めていたあの夜。創介さんが私を捕まえに来てくれた日……。

――!

何の前触れもなく、あるシーンが脳裏を過る。そして私は咄嗟に俯いた。

 
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