雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
新居は、表参道にある賃貸マンションだ。この界隈は、何をするにも困らないうえに住環境もいい。
「本当に、この辺お洒落ですよね……」
隣に座る雪野が、周囲の街並みを見つめながらしみじみと呟く。
マンションからほど近い場所にあるカフェで、食事をすることにした。オープンテラスも併設されていて、どことなくパリあたりのカフェの雰囲気を醸し出している。
十月の青空は気持ちがいい。せっかくだからとオープンテラスに席を取った。
「このエリア、気に入ったか? これから雪野が暮らす街になるんだからな」
「はい。少し、緊張しちゃうけど」
ふふ、と笑ってカフェオレを飲む雪野の姿を、頬杖をついて見つめる。
薄く化粧をして、髪を一つに縛る。それはこれまでの雪野の姿と何ら変わらない。
でも、どうしてだろう。これまで見て来た雪野とは、また違った人間に見えるから不思議だ。
薄く小さな唇から細い顎へと続くライン。決して大きくはないけれど、優しさが滲み出た目には大人の色香が増した。
これまでよりずっと雪野の存在を近くに感じる。カフェオレのカップに添えられた左薬指が目に入った。
それは、結婚して家族になったからか――。
「創介さん、見て!」
「どうした?」
「結婚式をあげた新郎新婦が、こっちに」
雪野が笑顔になって前のめりになる。
「どこだ?」
雪野に見入っていて、他のものがまったく視界に入っていなかった。
「この前を通って行くんですよね」
このカフェがある通りの奥に、チャペルがある。そこで式を挙げた人は、このカフェの前を通り披露宴会場のある建物へと入って行くらしい。
だから、俺たちのように何の関係のない人間までもがこうして目にすることになる。
周囲の通行人やカフェの客、皆が視線を向ける。赤の他人ではあるけれど、誰もがその目には祝福の意を浮かべていた。
「新婦さん、綺麗だな……」
ちょうど俺たちの前を新郎新婦が歩いて行くところを、雪野がうっとりとした目で見つめていた。
昨日のおまえの方が、俺にはよっぽど綺麗だった――。
と、言おうとしてやめておいた。
満面の笑みの花嫁は、胸元も背中もかなり開いたドレスを着ている。それを見て、しみじみ思う。ああいうドレスは、やっぱり雪野には着せられない。
花嫁の衣装なんて、どれも似たようなもので、他の女性が着ている分にはまったく気にならないのに、いざ雪野が着るとなると異常に気になった。
雪野の肌は、極力人目に触れさせたくない――なんてことまで考える俺は、相当に重症だと思われる。
雪野に出会うまで、女にこんなにまでも執着したことはなかった。
雪野の慎ましやかな雰囲気のせいもある。一見、特別人目を惹くような容姿でもなく、地味で真面目な女だ。
だからこそ、その奥に隠し持つ女の顔は俺だけのものにしておきたい。他の誰にも知られたくないし見せたくもない。
要するに、愚かなほどの独占欲だ。