雪降る夜はあなたに会いたい 【下】




――と、俺がやきもきしたところで。

「お菓子だー!」

真白は、理人から離れ継母に突進していた。まあ、子どもにとっては、おいしいものの方が大事なのだ。そんな真白の姿を見て、ふっと笑ってしまった。

「――兄さん」

真白が離れて身体が自由になった理人が俺の元に来た。

「近々、結婚しようと思ってる」
「え……っ? 本当か?」

その静かな声と相反する声を上げてしまう。

「うん。相手は、研究員時代からの仲間なんだ。兄さんと雪野さんにも、今度会ってほしい」

めでたい報告だというのに、俺はまったく気の利いた言葉が浮かばない。

「……おめでとう。良かったね」

隣にいた雪野が理人に微笑む。そうだ。まずは”おめでとう”だ。

「理人、おめでとう」

今も、理人と俺は大した交流があるわけではない。こうやって家族が集まる時に顔を合せて、一言二言、言葉を交わす程度。

でも。
こうして理人が俺に穏やかな表情を向けてくれるようになったこと。その意味することを噛みしめる。

「俺にできることなら何でも力になる。どんなことでもいい。言ってくれ」

勢いのままに告げた俺の言葉に、理人の穏やかな目が一瞬揺らいだ。そして、柔らかな笑みを浮かべて理人が言った。

「……ありがとう」
「お茶にしますよー!」

ダイニングテーブルから、真白の大人ぶった声が聞こえて来る。

「今、行くよ」

理人が優しく答えた後、「真白には、少しの間黙っていて」と声をひそめて俺たちに告げ、テーブルの方へと立ち去った。

「――創介さん、良かったですね」
「ああ……」

雪野がそっと囁いた。

「本当に良かった」

数年で許されることだとも思っていない。俺ができることをしていくしかない。
でも。理人の結婚を俺が祝うことを許してくれる、その理人の思いが胸に沁みて。目頭が熱くなる。

 そして、改めて、この見慣れた広い居間を見つめた。雪野と結婚する前は、ここがこんなにも皆の笑顔で溢れたことなどない。皆が皆、心に負の感情を抱えて暮らしていた。そのことに思いを馳せると、感慨深い気持ちになる。

 父がいて、継母がいて、理人がいて。雪野がやって来て、そして真白がいる。いろんな葛藤を超えて、今笑えることに感謝する。


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