雪降る夜はあなたに会いたい 【下】


秋の気配が色濃くなり始めた頃――。

「広岡、会議やるから、会議室取っといて」

ルーティンワークをしていたその時、係長が俺に声を掛けて来た。

会議――?

珍しいな。と思った次の瞬間には面倒だなと、思っている。

 俺の所属する、広報室広報誌係は、決まりきったことを決まりきった予定でこなしていくところだ。
 要するに、まったく覇気もやる気も必要としない仕事である。覇気もやる気もない俺には、ぴったりと言うわけだ。

「会議室、すぐ取れよ!」
「分かってます」

面倒だと思いつつ会議室を押さえるため部屋を出て行こうとした時、お隣の広報係の奴らが活気づいているのが目に付いた。

 そう、広報係は、まあいわゆる社の広報担当。広報誌担当とはわけが違う。
 今度初めてCMを作るとかで、最近奴らは色めきだっている。

 なんだか鼻について気に入らない。

 そんな華やかな仕事とは程遠い、二か月に一度の社内の広報誌を作る地味な仕事だ。

こんな仕事なくなったところで、会社は無関係に回って行く――。

そう思えば、やる気なんてものは起こるはずもなく。自分の仕事の意味なんてこれっぽっちも見いだせないから、気付けばこんな冷めた温度の人間になっていた。

と言っても、今では自分の仕事に意味なんてなくても全然かまわないと思っているけど。


「――というわけでだ。12月発行の年末特大号では、目玉の企画を掲載したいと思う」

係長の草陰(くさかげ)さんが、何故かテンション高く俺たちにそう言い渡した。

「目玉って、なんすか? 例年なら、”ボーナスの使い道”とか”冬の旅行のおすすめは”とかそんなものでしょう。ああ、あとは、お決まりの”社長の訓示”」

2年先輩の寺内さんが頬杖を突きながらぼやく。

「今年は違うぞ! 広報室長から、是非にという企画があってそれをやろうと思う」
「広報室長からって、なんですかそれ」
「最近、『広報誌リクエスト』に大量にリクエストが来ているだろう? 社員が熱望していることだからそれを取り入れるべきだってな」

――広報誌リクエスト。
それは、広報誌で取り上げてほしい企画なんかを社員が投稿できるシステム。

そんなシステムが整備されているが、リクエストなんかほとんど来たためしがない。

「最近……ああ、四月に来た常務の話ね」

思い出したように寺内さんが口にした。

「それだよ。近年稀に見るリクエストの多さだ。俺もびっくりだよ。四月に常務が来た時から社内ではざわついていたけど、このたび結婚したって言うじゃないか。それで、そのショックを吐き出すかのように、女子社員から広報誌リクエストにリクエストが届きまくっている!」

どうしてあんたが興奮しているんだ――。

一人喚きたてる係長を、どこか冷めた目で見ていた。

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