主従夫婦~僕の愛する花嫁様~
「━━━━━紅葉様」

「何?」

「何があったのですか?何か、心配事でも?
今日の紅葉様、様子がおかしいです」
手を繋いでない右手で、頭をポンポンと撫でる雲英。
安心させるように、微笑んだ。

「甲斐は嫌なの?」

「いえ、まさか!
僕からすれば、こんな紅葉様も大好きです!
それに、びっくりする程に嬉しい。
紅葉様が、僕から頑なに離れないから。
気持ち的に凄く安心します!
ただ…いつもの紅葉様じゃないので、なんか心配で。
紅葉様。
僕、急いで食べます。
なので、食べたらすぐ紅葉様の頭撫でてますから。
だから、少しの間だけ手を離しましょ?」

「うん…」

紅葉は、自分でもわかっていた。

かなり酷いワガママを言ってること。
子どもなら、まだ可愛い。
でも紅葉のは、かなりタチの悪い命令のようなものだ。


結局━━━雲英に頭を撫でてもらいながら食事をして、また指を絡めるように手を繋いで店を出た紅葉。

途端に、自己嫌悪に陥っていた。

食事中、雲英は“大丈夫ですよ?僕はずっと傍にいますからね!”と、安心させるように言い聞かせていた。
その優しさに、紅葉は罪悪感を感じていたのだ。

理亜との一件以来、何故か不安がついてまわっていた紅葉。

あれから神と理亜は順調に仲良く過ごしているし、雲英も変わらず紅葉に惜しみない愛情を与えてくれている。

それなのに、何故か不安なのだ。

幸せすぎて、いつか……フッと失くなるのでは?と思ってしまう。
強欲に、雲英への独占欲が膨れていく。


「…………甲斐」
「はい!」

「ごめん…なさい……」

「え…どうして、謝るのですか?
紅葉様は、謝らなければならないことをしてないですよ?」

「ワガママ言って、困らせてごめんなさい」

「え?これのどこが、ワガママなのでしょうか?」

「え?」

「僕としては、とても喜ばしいことですよ?
先程も言いました通り、紅葉様が頑なに離れないので安心します!
あぁ、僕は紅葉様に愛されてるって!」

「なんかね」
「はい」

「どうしようもない、欲が出てくるの」
「ん?」

「ずっとくっついて、離れられなくなりたい。
甲斐を、閉じ込めたいって!」

「それは、僕もです!
紅葉様と、離れられなくなりたいです!
出来ることなら、あのマンションに閉じ込めたいです!
だから、紅葉様のお休みの日は天国です!
ずっと一緒にいれるから!」

「うん、そうだね!」

「大丈夫ですよ!
僕の方が離れたくないので、離れるなんてことあり得ません。
例え紅葉様が“離して”って言っても、離しません!」

「甲斐…
フフ……うん!離さないで?(笑)」

「あ、やっと、笑ってくれた!
フフ…望むところです!(笑)」

雲英の言葉に、漸く落ち着いた紅葉だった。
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