天使くん、その羽は使えません (短)
「……」


その手に握られているのは、バドの参考書。天翔くんは無言のまま、ギリッと音がするまで、それを握りしめた。

かと思えば、体の力を抜くように「ふぅ」と息を吐く。その顔は、無表情……

ではなかった。


「待ってて、晴衣――」


意を決した天翔くんは、背中から大きな羽を出す。そして助走を付けるように数回羽ばたいた後。窓から、天高く空へ舞い上がる。そして風を切り、ものすごいスピードで大空を翔(かけ)るのだった。



――そんな彼の行き先が、まさか自分のいる会場だとは知らない私。

ファーストゲームを落としてしまい、現在、セカンドゲームに入っていた。

先に21点を2回取った方が、その試合の勝者となる。今は20対17。相手がマッチポイントだ。

あと1点を取られれば、この試合は終わる。私が負けて、敗者となる。

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