3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
すると、突然楓様の表情が真顔へと変わった瞬間、鋭く光った琥珀色の瞳が呆然とする私の目を捉えた。

それは、まるで獲物を見定めた狼のようにも見えて、そこから感じるただならぬ色気に目を奪われていると、その隙を付くように楓様は再び私の唇を奪い始める。

「……んっ」

しかし、今度のは先程の優しいキスとは全く違い、強引で、情熱的で、まるで貪るような激しいキスに思考がどんどんと奪われていく。

次第に体を支える力さえも奪われていき、段々と息苦しくなってきた私は腰が抜けてしまい、それを見計らったかのように楓様は私の体をソファーに押し倒してきた。

そのまま首元に顔を埋めてくると、熱い吐息と共に吸い込むようなキスを首筋にされた瞬間、私の体は大きく反応してしまう。

「……あっ、か、楓さんっ!」

同時に、今まで出したことのない変な声が自然と漏れてしまい、そんな自分の声に驚くも、その余裕すら与えず楓様は荒々しく首筋に何度も強く吸いついてくる。

まるで捕食されているような気分になりながら、くすぐったいような、体がぞくりと震えるような妙な感覚が次々と襲ってきて、その度に変な声が漏れ出てしまう。

まさにこの状況は、楓様と初めて出会った時に目撃してしまった僭越な光景と同じ。

組み敷かれて、絡み合って。
そして、そのまま……。


「こ、これ以上はダメですっ!」

その先を想像した途端、私は恥ずかしさのあまり耐える事が出来なくなり、思いっきり楓様の体を引き剥がしてしまった。


「……やっぱりな」

しかし、それは想定済みだったのか。
楓様は驚くこともせず、残念がるような目で私を見下ろしてきて、小さく溜息を吐いた。

「も、申し訳ございません……」

そんな眼差しに罪悪感が押し寄せてきた私は、思わず自分の顔を隠すように両手で覆ってしまう。

これが泉様のように上手く出来たら、もっと楓様を満足させられたのかもしれないのに。
これだけで限界を迎えてしまう自分が情けなくて、自己嫌悪に陥ってくる。

すると、楓様はそんな私をそっと包み込むように横から抱き締めてきて、まるで子供をあやすようにゆっくりと頭を優しく撫でて下さった。

「いや、悪いのは俺の方だ。ちょっと自制効かなくなって……。今度は気をつけるから」

それから、耳元でそう囁いて下さった声がとても穏やかで、心地良く、段々と気持ちが落ち着いてきた私は、顔から手を離して見上げると、愛おしそうに見つめてくる楓様と目が合った。


……ああ、私はこんなにも大切にされているなんて。

十分過ぎるくらいの愛情がひしひしと伝わってきて、心が温かくなって、安心出来て、怖いものなんて何もないと思えてくる。

人から愛されるのは、これまでに感じたことのないくらい幸せで満ち足りていて、これ以上は何もいらない。

そんな気持ちを、楓様にも沢山味わって頂きたくて。

ずっと失っていた分を、これからは私で満たしてあげたくて。

そう思うと自然と手が伸びていて、首元に抱きつき、大胆にも自分の唇を楓様の唇に重ねていた。


まさか私からキスをされるとは思っていなかったのか。
唇をそっと離した時に、目を大きく見開いてこちらを凝視している楓様の表情を捉えた。

私も後になって自分の振る舞いに恥じらいを感じ始め、これ以上目を合わせることが出来ず、何も言えないまま顔を逸らしてしまう。

その時、左頬に楓様の手が添えられたかと思うと、無理やり視線を戻された瞬間、触れるくらいの軽いキスを唇に落とされ、不意のことに今度は私が驚いた目を彼に向ける。

「お前も気をつけろよ。こういうことされると耐えられなくなるだろ」

そう仰る楓様の耳は赤くなっていて、私以上に恥じらい戸惑っている表情が何だかとても可愛いらしく見え、胸を思いっきり締め付けてきた。

「はい。肝に銘じておきます」

そして、私は満面の笑みでそう言い返すと、そのまま自分の体を擦り寄せて、再び楓様の首元に抱き付く。

それから暫くの間、私達はお互いの愛を確かめ合うように、ソファーの上で抱きしめ合いながら穏やかで甘いひと時を過ごしたのだった。
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