3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜



「美守先輩、大丈夫ですか?なんか顔が疲れてません?」

雲一つない青空の下、私はカフェのテラス席で外をぼんやり眺めていると、注文した品を運んできてくれた桜井さんは心配そうな面持ちでこちらに視線を向けてきた。

「そ、そうですか?ここ最近ずっと働き詰めだったからでしょうか」

私は彼女から抹茶ラテを受け取ると、苦笑いを浮かべながら一先ずこの場を誤魔化してみる。

「でも、久しぶりに桜井さんの顔を見たら元気出てきます。もう少し暖かくなってからでも良かったのに、本当に今日は来て下さってありがとうございます」

そして、今度は満面の笑みで私は彼女に改めてお礼を伝えた。

「早く美守先輩に会いたかったですから!もう暫く癒しがなくて、ずっと寂しかったですよ!」

そう力を込めて言われた“癒し”という言葉に照れながらも、ふと以前楓さんにも言われた事を思い出し、そこから急激に寂しさが襲い掛かって来る。

「…………もしかして美守先輩、東郷様とあまり連絡取ってないんですか?」

「ええ!?な、何で分かるんですか!?」

すると、そんな私の心中を的確に突いてきた桜井さんに私は動揺を隠す事が出来ず、つい本音が漏れてしまった。

「だって顔にそう書いてありますもん。やっぱり、美守先輩って相変わらず分かりやすいですねー」

しかも自信満々に断言されてしまい、私はつくづく感情をコントロール出来ない自分を恨めしく思う。

「もう一ヶ月以上話してないんです。以前白鳥様にそうなるかもと言われたので、覚悟はしていたんですが、やっぱり少し心配で……」

あれだけ、自分にも周りにも信じているから大丈夫と豪語していたくせに、いざ壁にぶつかると、その意思が段々と弱まり始めていく。

そんな情けない自分を認めないようにしているけど、暫く楓さんロスが続いてしまっているせいで、奮い立たせる力も段々と弱くなっていってしまった。

「美守先輩から連絡はしないんですか?」

そんなどんどんと気持ちが萎んでいく中、再び心配な面持ちで尋ねられた桜井さんの問い掛けに、私は無言で首を横に振って応える。

「今はとてもお忙しいと思うので、とりあえず様子を見てこちらから連絡を入れるつもりではいますよ」

最近ではメッセージを送ってもなかなか既読にならないので、そのうち返信が頻繁に来るようになるまでは待とうと自分の中で決めていた。

おそらく、それぐらい多忙だとしたら、きっと食事だってまともに摂っていないかもしれないし、睡眠だってままならないかもしれない。また体調を崩していたらどうしようとか、楓さんの体の方までも心配になってくる。

でも、もしそれ程なんだとしたら、今はよっぽど大きな案件を抱えているのか、あるいは……。


「……美守先輩?どうしました?」

すると、暫く考え込んでしまった私の顔を桜井さんは眉を顰めながら覗き込んできて、私はそこで我に返った。

「すみません、何でもないです。それより、ここから歩いて行ける距離に小さな教会があるんですが、次はそこに行ってみませんか?静かで雰囲気も良くて凄く幻想的なんですよ」

一先ず、せっかく桜井さんが遊びに来て下さっているので、これ以上心配させてはいけないと。私は気持ちを切り替えて、事前に用意した観光スポットを笑顔で提案してみる。

「ええ!?そこめっちゃ行ってみたいですっ!良かったら今度瀬名先輩にも教えますから!」

そんな私の提案に対して、目を輝かせて予想以上に喜んでくれた桜井さんに気持ちがほっこりしがら、私達は引き続き軽井沢観光を目一杯満喫したのだった。
< 286 / 327 >

この作品をシェア

pagetop