3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
「本当に美守先輩って、もはや絶滅危惧種になりつつある典型的な大和撫子タイプですよね。私先輩のファン何人も知ってるんですよー。てか、この前も常連のお客様に先輩の事聞かれましたし」

一通り作業が終わり、私達は次の作業に移るべく人気のない通路を移動していると、桜井さんは再び目を輝かせながら私の方に視線を向けてきた。

「艶やかな長い黒髪美人で、清楚で優しくて器量良しの上に、立ち振る舞いまで綺麗でおとしやか。まさに才色兼備とはこのこと!美守先輩ってこんな完璧な人のに、何で未だに彼氏いないんですか?」

それから、最後に何とも痛い所をつかれてしまい、思わず言葉に詰まってしまう。

「そ、それは……。今まで厳しい家庭で育ってきましたし、しかも中等部から大学まで女子校だったので、男性との接し方が分からないと言おうか……」

本当に、我ながら今のご時世、この歳になってもこんな世間知らずな人間は居ないと思う。

実家はそれなりに裕福なので、バイト経験が一切ない私にとって、幼少期を抜かせば社会人になってから初めて身内以外の男性と接すると言っても過言ではない。

こんな私がホテルマンの道を選ぶなんて、両親にかなり心配されてしまったけど、そこを押し通してこの一流ホテルに就職が無事に決まった。

やはり始めのうちは男性と目を合わせることが大変で、私の指導係の人にはかなりご迷惑をお掛けしてしまったと今でも申し訳なく思う。

なので、年数を重ねてくうちに、ようやく男性との接し方にも慣れてきた私にとって、付き合うなんてまだ先の話だ。

二十七歳にもなってこんな調子じゃ、本当に自分はこれから結婚なんて出来るのだろうか……。

なんて、時折り真面目にこんなことを考えるようになり、気分が落ち込んでくる。
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