3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
「暗いし死角だから平気だよ。本当は家に着くまではって思っていたけど、我慢出来なくて。嫌なら止めるけど……」

まるで親に叱られた子どものように寂し気な目を向けながら、楓さんは名残惜しそうにそう言うと、私の唇をそっと指で優しくなぞり始める。

これはわざとやっているのか。それとも無自覚なのか。
これまでずっと毅然な態度を取っていたのに、先程とは打って変わり急に弱々しくなった彼のギャップに思いっきり心を鷲掴みにされた私は、当然ながらそれを跳ね除けることなんて出来ない。

「……もう。少しだけですからね」

なので、こうして彼を受け入れた途端、楓さんは一瞬だけほくそ笑むと、指を絡ませて再び私の口を塞いでくる。
そのうち、段々と楓さんの唇が下へと落ちていき、首筋に触れた瞬間熱い吐息と舌が敏感な部分に触れ、くすぐったさに思わず肩が小さく跳ね上がった。

しかも、何やら着ているブラウスのボタンを第三まで開けられ、若干露わになってしまった胸元にまで吸い付くようなキスを何度もしてきたので、無防備だった私の体は素直に反応してしまい、つい甘い声が漏れてしまう。
あまつさえ、今度はブラウスの隙間から手を入れられそうになり、楓さんの長い指が肌に触れた瞬間、驚いた私は咄嗟に彼の肩を掴み、思いっきりひっぺ剥がしてしまった。

「かかか楓さんっ!?そ、そこまでは許していませんよっ!?」

これはあの時のように無意識でやっているのか分からないけど、このまま彼を受け入れ続けていたら、とんでもなく恥ずかし事をされる気がして、私は顔を真っ赤にしながら頬を膨らませて強く非難する。

「……やっぱりダメか。少しだけって言っただろ?」

すると、楓さんは徐に私から離れると、不貞腐れたように不平を漏らしてくる態度に、今回は完全なる故意犯だということが分かった上、足元をすくわれてしまった私は益々顔に熱を帯びていく。

「そういう意味ではありませんっ!楓さんの変態!」

「何言ってんだ?男なんて大体そんなもんだぞ。まあ、どちらかと言えば俺は性欲強めな方なのか?」

だから、思いっきり彼を牽制したのに、何故か平然とした顔で開き直られた挙句、自己分析までし始める始末。

兎にも角にも、一度体を重ね合ってから楓さんは遠慮なしに手を出してくるので、ここはハッキリと言った方がいいのかとも思ったけど、結局彼の甘い言葉と表情に勝てる気がせず、私は密かにため息を漏らす。

「とりあえず、ここで飯でも食うか。そもそも、そのつもりで来たわけだし」

それから、楓さんは何食わぬ顔でさらりと話を切り替えた途端車を降りたので、一瞬呆気にとられた私はその場で固まってしまった。

「そ、それならそうと始めから言ってください!」

そして、思考が動き始めると、慌てて乱れた服を直し、体の熱が治らないまま続けて車から降りる。

何だか先程から楓さんに弄ばれているようで、毎回彼の掌で転がされている私は、悔しさのあまり軽く彼を睨みつけてしまった。
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