らんらんたるひとびと。~国内旅編~
 今夜はお酒を飲んでいないので。
 聴き間違いじゃないし、夢をみているはずもない。
 とんでもないシナモンの爆弾発言に「はああ!?」と悲鳴をあげる。
 幸い、ロビーに人はいなくて。
 虚しくも、私の声が響いた。

「ミュゼ様は今夜から鈴様と一緒の部屋でお過ごしください」
「え、本気で言ってるの?」
「ホムラ様、部屋までご案内願います」
 私の言葉を無視してシナモンはホムラさんと歩き始めた。
 どうしちゃったというんだろう…

 訳が分からないまま、2人について行くと。
 大きな扉の前で止まった。
「ミュゼ様、旅も折り返し地点です。疑似恋愛の任務ですわ」
 シナモンがにっこりと笑うと。
 どんっと背中を押されて、突き飛ばされた。
 まさか、シナモンに突き飛ばされるとは思わなかったので。
 バランスを崩して私は扉の向こう側へと吹っ飛ばされた。

 部屋に転がると。
 バタンと大きな音で扉が閉まった。
 大理石であろう、ツルツルとした床がひんやりとしている。

 部屋は月夜でなんとか明かりを保っている。
 暫く、私はその場にしゃがみ込んでいた。
 前を向くのが怖かった。
 香水の匂いでわかる。
 ドクドクという心臓の音が鳴り響く。
 いつも泊まっているホテルは安いホテルだから壁が薄く、
 近隣の宿泊者の笑い声が聞こえてくるというのに。
 この部屋は何も聞こえてこない。

「いつまで、そこに座っているつもりだ」

 私が動かないのにしびれを切らしたのか。
 声の主がはっきりと言った。
 ゆっくりと顔をあげると。
 バスローブ姿の鈴様が窓辺で座っていたので「ひぃっ」と悲鳴をあげてしまった。
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