らんらんたるひとびと。~国内旅編~
「ミュゼ様、ミュゼ様」
 名前を呼ばれて、う~と声を出して起き上がる。
「おはようございます。ミュゼ様」
 ぼんやりとした視界が徐々に鮮明になっていく。
 起き上がると、身体が痛い。
 目の前にいるシナモンを見て、一体ここはどこだろうと錯覚する。
 旅をしていると、だんだん自分がどこにいるのか、わからなくなってくる。

 ざざん…という波の音。
 目の前の囲炉裏を見て。
 ああ、カハナの嫌がらせでボロ小屋に泊まったんだった…と思い出した。
「あれ、鈴様は?」
 鈴様と明け方まで話していたのは覚えているけど。
 それ以降の記憶がない。
「鈴様は早朝の訓練があるそうで出かけていますわ。わたくしは、鈴様にミュゼ様の様子を見てきてほしいとお願いされましたので…」
「あの気遣いゼロの坊ちゃんがそんなことを?」
 本人がいないことをいいことに、ストレートに悪口が出てしまう。

 昨夜は暗くても、ボロいとわかっていたけど。
 太陽の下で改めて見ると、想像以上のボロい小屋に寝てたのか…とガッカリする。
 小屋を離れ、水をもらって顔を洗ったりシナモンに髪をとかしてもらったりと身支度しているうちに。
 はて、今日は出発する予定じゃなかったけ? ということに気づいた。
「ミュゼ様。まことに言いにくいのですが、カハナ様が…」
 昨日、宴会場となった場所に行ってみると誰の姿もなかった。
 申し訳なさそうにシナモンが言うので、なんとなく…状況を理解した。
「あの子が引き留めたのね」
 最初から、そんな予感はしていた。
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