転生アラサー腐女子はモブですから!?
「アイシャ、ここら辺でお昼休憩にしよう」

 キースの手を借り馬から降りたアイシャは、辺りを見回す。目の前に広がる小川は、大小の岩がゴロゴロと点在し、ゆっくりと水が流れていく。そして、穏やかな川面(かわも)には、陽の光が反射してキラキラと輝く。

(綺麗ね……、川の中に入ることって出来ないのかしら?)

 アイシャは靴と靴下を脱ぎ捨て裸足になると、小川の岩に腰掛け、足を水の中に浸した。サラサラと流れる水が火照った足を冷やし、とても気持ちいい。

「気持ち良さそうだなぁ~、俺も入っていいか?」

 アイシャに、二人分のサンドイッチの包みと水筒を手渡したキースが、アイシャの隣へと座り、足を小川に浸す。

「これは冷たくて気持ち良い。この小川は、山麓の湧水が流れて来ているから、こんなに冷たいんだろうなぁ。身体が熱かったから丁度いい」

 小川に足を浸しながら食べるサンドイッチ。ゆっくりと、時間が流れていく。

(キースと、こんな穏やかな時間を過ごせるなんてね)

 あの当時、わけも分からず憎まれ、剣を振るわれていた過去は、気にしないようにと、心の隅に追いやっていても、精神的なダメージは大きかった。

(ただ二人でサンドイッチを食べているだけなのにね)

 温かくなった心のままに、自然と笑みを浮かべていた。

「アイシャが楽しそうで良かった」

 アイシャの方へと振り向いたキースの手が、頬に触れる。

「――――えっ!?」

「笑っている……、ナイトレイ侯爵領へ来てからずっと緊張していただろう。こんな自然な笑みを見たのは初めてだ。アイシャが俺といて自然に笑ってくれたのが嬉しいんだ」

 心の底から嬉しさがあふれ出たかのようなキースの笑顔を見て、アイシャの心臓がトクンっと高鳴る。

(なんて顔して笑うのよぉ。私は、イケメン耐性無いんだから!!)

 キースの破壊力増し増しの笑顔を見て、アイシャの頬が、みるみる熱をもつ。このまま沸騰して倒れてしまいそうだ。

「一度アイシャに聞いてみたかった事があるんだ」

「えっ? 何でしょう?」

「どうして剣を握ろうと思ったんだ?」

 一人百面相をしていたアイシャは、急に真剣な顔に戻ったキースに、予想もしていなかったことを尋ねられ、答えに詰まる。

「以前、兄上から聞いたのだが、自分の身を守らねばならない事情があるとか何とか。周りに聞く限りだと、リンベル伯爵家の家族仲はとても良いはずだが、命を狙われるような事があるのか?」

 騎士団本丸の男同士の熱き肉弾戦を見たかったなんて言ったら、絶対引かれるよなぁ……

 大昔に、そんな口から出まかせを師匠に言ったことを思い出し、アイシャの背を冷や汗が流れていく。

(あぁぁぁ、自分の趣味がバレるわけにはいかないのよぉ)

「あ、あの当時は、結婚せずに自立する夢を持っていましたから!! ひとりで生きて行くには、自分の身は自分で守らないとでしょ。だから剣というか、護身術を習いたかったのです」

 アイシャの言葉に、何か考え込んでいるキースの様子に、嘘くさかったかと、アイシャの頭の中では次の言い訳を考え右往左往する。
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