転生アラサー腐女子はモブですから!?

心のままに

(リアムに嫌われたら、どうしよう……)

 心に巣くった不安が、大きく膨らみ、真実を告げねばと思えば思うほど、言葉が出ない。腐女子だと暴露してしまえば、リアムとの友人関係でさえ、壊れてしまうかもしれない。

 揶揄われながらもリアムと過ごした数年間が脳裏を巡り、不安で震える心を、わずかに慰めてくれる。

 呆れながらも丁寧に教えてくれた剣。疲れ果て地面へと倒れ込んだアイシャを抱き上げ、何度も柔らかな芝生へと運んでくれた。

 いつも『面倒くさい』と言いながらも、見捨てることだけはしなかったリアム。キースにボロ負けして、宿舎裏で泣いていた時も、何も言わず側にいてくれた。

 辛いとき、悲しいとき、いつも隣にいたのはリアムだった。今思えば、リアムの前でだけは、泣くことが出来た。

 リアムの隣は、居心地が良かった。自分の弱い所をさらけ出しても、大きな心で包んでくれる。安心して泣くことも、愚痴をこぼすことも、笑うことも、リアムの隣だったから出来た。

 だから、怖い。彼との友人関係まで壊れてしまうのが、怖くて仕方がない。

 このまま、趣味のことも、腐女子だと言うことも、何も言わず逃げてしまえば、リアムとの友人関係が壊れることはない。揶揄い、揶揄われ……、居心地のいい関係は変わらず続く。

 本当に、これからも、そんな居心地の良い関係は続いていくのだろうか?

 突如、心に湧き起こった疑念に、胸がズキりと痛みだす。

 いつかリアムも結婚する。社交界の寵児と言われている侯爵子息なのだ。結婚話は星の数ほど来ていることだろう。今回の婚約話が断ち消えれば、あっという間に、リアムと他の令嬢との婚約話が浮上する。

 リアムが、他の女性と結婚する。

 そう考えるだけで、アイシャの心は大きく揺れる。

(きっと、今のような友人関係ではいられないわね)

 このまま何も言わず逃げてしまっていいのかと、心が訴える。一生、後悔することになるぞと。しかし、言おう、言おうと思えば思うほど、頭をもたげる不安に、心が押しつぶされそうになる。

 堂々巡りを繰り返す脳に、アイシャの手が震え出す。

(どうすれば、いいの。どうすれば……)

 その時だった。震えるアイシャの手に、リアムの大きな手が重なり、強くキュッと握られる。その強く、暖かな温もりが、不安に揺れ動くアイシャの背を押す。
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