転生アラサー腐女子はモブですから!?
「はぁ~、家に閉じこもっているのも、つまらないなぁ」

 リアムに裏切られ、婚約話が立ち消えてから一ヶ月。アイシャは絶賛、引きこもり中だった。社交界で流れている悪い噂のせいで、めっきり夜会にも、お茶会にも呼ばれなくなったアイシャは暇を持て余していた。

 一ヶ月間、泣きに泣き続けたおかげか、リアムとのことは自分なりに決着がつけられたと思う。

(恋に鈍感な私のことを、数多(あまた)の令嬢を虜にして来た男が、本気で好きになるわけがないのよ。甘い言動に踊らされ、恋をしていたと勘違いしていただけ)

 リアムは、リンベル伯爵家と姻戚関係になるメリットのみで、婚約者候補になっただけ。『白き魔女』という旨味があれば、そちらに乗り換えるのは自然なことだ。

 傷が浅いうちに離れられて良かったのだ。もうリアムの事は忘れた方がいい。

 そんな事をボンヤリと考えていたアイシャの元へと、母がやって来る。

「アイシャに、お手紙よ。ナイトレイ侯爵家のキース様からだけど、私からお返事しておきましょうか?」

 そういえば、キースともずっと会っていない。とうとうキースからも愛想を尽かされたのかもしれない。あの社交界での酷い噂を聞けば誰だって愛想を尽かして当然だ。

(欠陥令嬢と噂されている私を、嫁にもらおうだなんて考える家は、きっとないわね)

 しかもナイトレイ侯爵家は、エイデン王国でも重要な立場にいる高位貴族だ。欠陥令嬢を嫁にしたとなれば、ナイトレイ侯爵家の家名にも傷がつく。

(手紙は、婚約辞退を前もって知らせてくれようとしたのね。なんだかんだ言って、最後までキースは優しい)

「お母さま、大丈夫ですわ。私からキース様へお返事を書きますので」

「そう……、アイシャが大丈夫なら、任せますね」

 母から手紙を受け取ったアイシャは、一人になるとキースからの手紙を開いた。

『アイシャ、貴方が体調を崩し家に籠っていると聞きました。ずっと家にいるのも、逆に気が滅入ってしまうのではありませんか? もし良かったら一緒に気分転換でもしませんか?』

 キースからの手紙を読み考える。どうやら、婚約辞退の知らせではなかったようだ。

(このまま、キースと音信不通というわけにはいかないわよね。これを最後にしよう……)

 社交界での評判が地に落ちた令嬢の婚約者候補でいるのは、キースの名をも貶める結果に繋がる。きちんと話をして、ナイトレイ侯爵家から婚約解消をしてもらった方が良い。お互いに傷は浅い方が良い。

(結果的に、これで良かったのよ)

 婚約話が出る前までは、一人で生きていくつもりだったのだ。そのために、剣を学び、色々な知識を身につけ、職に困らないように準備をしてきた。元々の計画通り、趣味に生きればいい。

 独りで生きて行けばいい……

 アイシャは、文机から便箋を取り出すと、キースからの誘いを受ける旨を紙にしたため、その手紙をナイトレイ侯爵家へ届けるように、侍女に託した。
< 180 / 281 >

この作品をシェア

pagetop