転生アラサー腐女子はモブですから!?
『町で悪役令嬢に雇われたゴロツキに襲われたグレイスが、攻略対象者のキースに助けられ、初めて出会う大切なシーン』

 怪我を負ったグレイスを抱き上げ、見つめ合う二人の美麗なスチル。一番のお気に入りのシーンが、何故かヒロインではなく、あの女に代わっていた。
 
(ヒロインは、私なのに……、あの女がヒロインのポジションを奪っていく)

 あの女は、この世界にいらない。乙女ゲームの世界に存在しないあの女は、消えなくてはならない。

 アイシャに対する嫉妬心が、グレイスの心を真っ黒に染めていく。仄暗い笑みを浮かべたグレイスは、テーブルに置かれた果実に、ナイフを突き刺す。

(あの女を、この世界から抹殺すれば、全て上手く行く。最推しのキースだって、私に落ちないリアムだって、血迷って、悪役令嬢と婚約したノア王太子だって、私を愛するようになる。あの女を殺せばいい……)

 グレイスは果実に突き刺さったナイフを手に持ち抜くと、手短にあったクッション目掛け、ナイフを振り下ろす。何度も、何度も、グサグサと突き刺せば、羽毛が飛び散り宙へと舞う。その光景を眺め、グレイスの笑みは益々深くなる。

(ほらっ……、神様も私を祝福している。やっぱり、私がこの世界のヒロインなのよ)

 元々、この乙女ゲームの世界に、あの女は居なかった。あの女を排除すれば、大好きな乙女ゲームの世界に戻る。

――――だって、私はこの世界のヒロインなのだから……

 宙を舞い落ちる真っ白な羽が、ランプの光を受けキラキラと輝く。その様を恍惚な表情を浮かべ眺めるグレイスの狂気は止まらない。高笑いが響く部屋の中、あらゆるものを切り裂き続けたグレイスの視界は、真っ白に染まっていった。
< 218 / 281 >

この作品をシェア

pagetop