転生アラサー腐女子はモブですから!?
『もう、ドンファン伯爵の下には付きませんよ。リアム様と取り引きをしましてね、今までの貴方様の犯した悪事の証拠と引き換えに、ウェスト侯爵家が私のバックについて下さる事になりましたのでね。今日限りでオサラバですわ。次に会う時は、貴方を顎で使うのはこの私ですよ。今まで散々こき使ってくれましたので、お礼はたっぷりさせてもらいますよ』

 子飼いの男の言葉を思い出し、身体の中で荒れ狂っていた怒りが限界を超え、吹き出す。当たり散らしたい衝動に駆られ、手近にあったグラスを手に取り、それを扉へと叩きつける。割れて床へと散らばったガラスの耳障りな音でさえ神経を逆撫でして、さらに怒りは倍増していく。

(――――っ馬鹿め! リアムが本気でバックに付くと信じるなんて、あの男は馬鹿過ぎる)

 いいように踊らされて、嵌められているとも気づかない。ウェスト侯爵家が証拠を掴むため甘い言葉を囁いているに、決まっているではないか。証拠を掴んでしまえば、子飼いの男は用済みだ。あっという間に始末されるのがおちだ。

 どうにか今の状況を切り抜ける手立てを考えねば……

 焦る気持ちを抑え冷静さを取り戻そうと躍起になるが、うまくいかない。喉元まで迫り上がった恐怖心が、冷静さを失わせ、考えても考えても、打開策が思い浮かばない。執務室に置かれていた調度品や絵画、はたまた実用品に至るまで、手当たり次第に壁に投げつけては、叫び声をあげていたドンファン伯爵の元へ、焦り顔の執事が駆け込んで来る。

「旦那様、大変でございます。ただ今、王城より使者様が参りまして、『可及の要件にて、旦那様に会わせろ』と、おっしゃっております。ひとまず、客間へと通しましたが、如何致しましょう。お会いになられますか?」

 何っ!? 王城より使者だと!! 嫌な予感しかしない……

 茫然自失のまま、焦り顔の執事に問いかける。

「誰からの使者だ!?」

「陛下からの遣いの者と申しております」

「直ぐに会う」
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