転生アラサー腐女子はモブですから!?
 あの男は、次期王としての狡猾さも、運の強さも兼ね備えている。この国の未来は安泰だろう。しかし、ノア王太子の黒く濁ったあの瞳は、己の欲と同類のモノ。あの瞳の奥に見え隠れするモノは、醜い嫉妬心と支配欲。奴もまた、こちら側の人間だということだ。

――――手に入らないなら壊して仕舞えばいい。

 そんな欲望が見え隠れする狂気的な瞳。果たして、あの瞳を向けられているのは誰なのか。

(まぁ、グレイスさえ手に入れば、ノア王太子の治世がどうなろうと、私には関係ない)

 怒り狂っていたグレイスを思い出し、笑いが込み上げてくる。
 
 アイシャが一人で町に出掛ける日時を掴み、その情報をグレイスに流した。奇しくも、裏界隈のボスとリアムが密会する日と重なるなんて、運命の悪戯としか言いようがない。

 グレイスの怒り狂った叫び声を聞く限りだと、アイシャをゴロツキに襲わせる計画は失敗したようだ。もしかしたら、リアムかナイトレイ侯爵家のキース当たりが助けに入ったのかもしれない。

 アイシャにも色々と影の者がついているようだし、グレイスが考える計画など、所詮は穴だらけ。上手く行くはずもない。

 さて、今後グレイスの立場は着実に悪くなって行くだろう。ドンファン伯爵の命も風前の灯火だ。

 あとは、転落したグレイスが、己の手の中へと堕ちてくるのを待つのみ。

『チリンチリン』

 グレイスがセスを呼ぶベルの音が、静まり返った廊下に響く。

(今は忠実な執事を演じてあげよう。貴方が、私の手に堕ちるまでは……)

 今後の展開を想像し、黒い笑みを浮かべたセスは、グレイスの部屋の扉をノックした。
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