転生アラサー腐女子はモブですから!?
 漆黒の闇の中、キースは馬を全速力で走らせる。

 どうか、間に合ってくれ!

 キースが街外れの廃屋に着いた時、辺りの異様な雰囲気に疑問を抱く。王太子付き騎士団の面子に、街の憲兵、それに王家の諜報部の気配までする。

 この廃屋の中はどうなっているのだ。

 はやる気持ちを抑え、騎士団の顔見知りを捕まえ、状況を確認する。すると、ある人物の大捕り物が行われる計画があり、合図と共に乱入する手筈となっていると言う。

 アイシャからの手紙とは別に、リンベル伯爵から見せられたもう一つの便箋には、『一人で廃屋に来い』と書かれていた。グレイスは、リアムを人質にアイシャを誘き出し、彼女に危害を加えるつもりなのは間違いない。しかし、ノア王太子側の人間に包囲された廃屋の現状と、グレイスがアイシャに宛てた手紙の内容とでは、あまりにも状況が、かけ離れている。

 まさか、裏でノア王太子とリアムが動いているのか? 白き魔女を騙ったグレイスの罪を暴くために。

 それにアイシャは利用された。

 アイシャの命よりもグレイスの罪を暴く事の方が大切なのか!!

 二人に対する怒りと、アイシャの安否がわからない焦燥感に支配され、騎士団員の静止を振り切りキースは駆け出す。

 アイシャに何かあれば、ノア王太子だろうとリアムだろうと絶対に許さない!

 どうか無事でいてくれ……


 朽ち果てた扉を蹴破り、ボロボロの廊下を抜け、真っ暗な室内の中、明かりの見える方へ向かい走る。

「――――アイシャ!! 無事か!?」

 剣を抜き、走り込んだ室内では、リアムに抱きしめられたアイシャがいた。

 無事だったか……

「キース様――――っ!? あの…………」

 キースの声に振り向いたアイシャが動く。こちらへとアイシャが一歩踏み出した時、異変が起こった。

「死ねぇぇぇぇ!!!!!」

 甲高い叫び声と共に、短剣を握ったグレイスが、アイシャへと突進していく。

――――っ間に合わない! アイシャァァァ!!!!

 一瞬の出来事だった。

 アイシャを抱きしめたリアムの脇腹に短剣が突き刺さり、リアムの着ていた白シャツが血濡れていく。そして、足元に血溜まりが広がり、生気を失ったリアムが力なく床に膝をつき、崩折れた。

「…リアム…ねぇ…リアム…………」

 床に倒れ動かないリアムを抱え、アイシャが叫ぶ。

「イヤァァァァァァァ…………」

 その時だった。

 アイシャの身体が青白くキラキラと輝き出し、わずかだった光の粒があっという間に広がり、動かないリアムを包み込む。

『最後の白き魔女は、青白く輝く光の粒に包まれ消えていった』

 キースの脳裏に、ナイトレイ侯爵家に伝わる悲しい伝承が巡る。

「アイシャ、ダメだ!! その力を使っては――――」

 キースの叫びがアイシャに届くことはない。ゆっくりとアイシャがリアムの上へと崩れ落ちていく。その光景を見つめることしか出来ない己の不甲斐なさに、キースは慟哭するしかなかった。
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