転生アラサー腐女子はモブですから!?
 湿気を帯びた空気に、時折り血生臭い匂いが漂う地下牢に閉じ込められて、どれくらいの時間が過ぎたのだろうか。簡易的なベットがあるだけの空間。窓もなければ、明かりすらない闇で過ごす日々は、時間の感覚までグレイスから奪い去った。今が昼なのか、夜のなのかもわからない。

 唯一外に出られるのは、裁判に立つ時だけ。

 美しく輝いていたピンクブロンドの髪はガサガサとなり、陶器のように艶めいていた肌は、栄養が足りていないのか、カサつき薄汚れている。誰もが振り返る美貌は見る影もなく、グレイスの姿は、まるで老婆のように変貌していた。

 始めは、抵抗する気力もあった。しかし、過酷な地下牢での生活は、グレイスから戦う気力を削いでいった。

――――明日、私の死刑が執行される。

 つらつらと述べられた罪状は、ほとんど覚えていない。

 どうでも良かった。これで全てから解放されると思えば、死刑も悪くない。

 乙女ゲームのヒロインであるはずの『私』がこの世界から消え去る。

 グレイスの脳裏に、アイシャが言った最後の言葉が浮かぶ。

『貴方は白き魔女でも、ヒロインでもない。ただのグレイスよ。私達が生きている世界は乙女ゲームの世界なんかじゃない!』

 あの娘が言ったように、この世界は乙女ゲームの世界ではなかったのかもしれない。もう疲れた………

 長きに渡る地下牢での生活に、気力も体力も底を尽きたグレイスは、考えること放棄する。遠くの方から聴こえる叫び声に、この断末魔を聴くのも最後かと思うと、笑いが込み上げてくる。

『明日の私も、あんな叫び声を上げるのかしらね……』と考え、自嘲的な笑みを浮かべたグレイスは、ゆっくりと瞳を閉じた。

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