転生アラサー腐女子はモブですから!?
「ねぇ、アイシャ。今年のノア王太子殿下のファーストダンス、誰が選ばれると思う?」

「ファーストダンス?」

「えっ? 知らないの? ノア王太子殿下と、デビュタントの一人がファーストダンスを踊るところから夜会が始まるのよ。ノアさま、まだ婚約者を決めていないでしょ。だから、そのファーストダンスで見初められた令嬢は、婚約者候補になるって言われているわ」

「はぁ……」

「はぁ、じゃないわよ! 婚約者のいない令嬢にとっては勝負の時なのよ。でも、今まで選ばれてきた令嬢は、みんな婚約者のいる令嬢ばかり。だから、今年はって、盛り上がっているの」

 ノア王太子の名前に、昔の記憶が脳裏を掠め、嫌な気分になる。からかい混じりに、迫られたことは数知れず、逃げ回ることに必死になっていた過去を思い出し、顔をしかめる。

(子供のお遊びね。ノア王太子も私のことなんて覚えてないでしょ)

「そうなのぉ。まぁ、私には関係ないか、な」

「もう、アイシャは欲がないっていうか、なんというか」

 そんな掛け合いを友達令嬢としていたアイシャ他、デビュタントに声がかかる。侍女に促され、一列に並び会場入りしたデビュタントは、陛下の前へと並び一斉にカーテシーをとり、順に名乗っていく。

 夜会の始めに陛下の御前でデビュタントの紹介と有難いお言葉を賜るのだ。一連の儀礼が終わり、王族が会場入りしてくる。その中に、懐かしい顔を見つけ、アイシャの心が温かくなった。

(クレアさま……、お話し出来る機会はあるかしら?)

 王城へ行かなくなった一年間、アイシャはクレア王女と文通を通して交流を続けていた。先日届いた手紙にも夜会で会えるのを楽しみにしていると書かれていた。

 積もる話もある。きっと、クレア王女も、時間を取ってくれるだろう。

 クレア王女との楽しい女子トークに想いを馳せていたアイシャは、目の前に立った人物の存在に気づいていなかった。

「アイシャ、久しぶりだね。ファーストダンス、私と踊って頂けますか?」

「――――えっ!? ノア王太子、殿下……」

 呆然と立ち尽くすアイシャの手をとったノア王太子に引き寄せられ、ホールの真ん中へと連れ出されていた。

(王太子がデビュタントの一人とファーストダンスを踊ると、さっき知った。知ったけど……、なんで私を選んだのよぉぉぉぉ!!!!)

 アイシャの心の叫びは、ゆっくりと流れ出したワルツにかき消された。


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