「急募:俺と結婚してください」の手持ち看板を掲げ困っていた勇者様と結婚することになったら、誰よりも溺愛されることになりました。

26 寝相

 いつもの起床時間より二時間も早く起きて、肌寒い空気に震えながら長めのガウンを羽織り、まだ開ききれない瞼を擦りながら、私は夫シリルの部屋の扉をそっと開いた。

「えっ……嘘でしょう。もう居ないの? まだ、夜明けの時間なのに……」

 薄暗くてまだ鳥も鳴いていない早朝だというのに、シリルはもう起きているの? 自分なりに頑張って早起きして、ついさっき起きたばかりの私は、夫がベッドにもう居ないことに愕然とした。

 この前、一緒にお茶を飲んでいたルーンさんが「シリルは本当に寝相悪くて、俺らも運悪く、宿屋に空き部屋なくて、男三人同室になった時は大変だった」と勇者パーティとして旅していた頃の話をぽろりとこぼし、それを聞いた私は、そんな夫の姿が無性に見たくなってしまった。

 シリルは世界を救った勇者様で、姿形も凜々しくて優美。

 キリッとした真剣な顔が私を見ると崩れて、にこっと笑うところも好きなんだけど、それはこれと関係なくて……完璧な男性としか見えないシリル本人からも自己申告があった悪いという彼の寝相が、どうしても見てみたい。

 私は彼の妻で、隣に部屋を持っている。
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