冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
(もし君がセシリーだったなら、私は止められただろうか……君のしようとすることを)

 皺も増え、見る影も無くなった己の手を握ってみたが、衰えを感じずにはいられない。

 もしそれがサラであれば、いかなる選択を選んだとしても私にそばにいて彼女を守っただろう。しかし……セシリーにとっては、もうその役目は自分のものではないのかもしれない。娘は今、自分の手で新たな居場所を築こうとしているのだから。

 共に未来を歩んでゆける人物へと託し、信じて背中を押してやるべき時が訪れているのかも知れない。そんな胸中で芽生えた、今までの決意とは反対の思いが正しいのか……この旅で見定めなければならない。

 私は仕事に区切りをつけるべく、机の上で忙しなく手を動かし始めた。静かで長い夜がゆっくりと更けてゆく中、月は雲に隠れ、ランプの明かりだけが寂しく私の手元を照らしていた。
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