冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
 オーギュストはきっと、サラと出会うことで……セシリーの親となったことで、色々なものを捨てたり、諦めたりしたのだろう。彼のみならず、セシリーの知る人たちの多くは互いに影響を受け合い、自分を変化させていく。いつだって先は見えなくて、きっと怖れに足がすくむこともあったはずだ。でも自分自身でそれを選んで、胸を張って前に進もうとする。

 セシリー自身もそうありたいと思う。辛い道でも、苦しい道でも……選んだことに自信を持って、大切な物を手放さずに、生きていたい。

「ね……お父様。お母様の話をしてよ。お父様から見て、どんな人だった?」
「サラか? サラは……」

 オーギュストはさして考えもせず、はっきりと言い切った。

「それはもちろん……誰よりも優しく、そして美しい女性だったと断言する! 頭も気立てもよく、人一倍努力家! どんなときでも笑みを絶やさず、どんな人からも好かれるような、そんな女性だった。悪いところなんかひとつもなかった」
「ふふっ。そんな神様みたいな人、いるわけないじゃない」
「私はサラを世界一愛していたからね。私から見れば本当にそうだったのさ。でもな……」
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