冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~

セシリーを追って

 曇り空の下、ファーリスデルの王都からふたつの騎影が出発する。
 
 ひとりは黒髪、ひとりは赤髪の騎士が見事な手綱さばきで馬を走らせながら、西にある隣国を目指していた。

「団長、団長……っ! いくら魔法で負担を和らげてるとはいえ、これ以上速く走ると馬が潰れちゃいます!」
「……わかってる!」

 それはファーリスデル王国魔法騎士団所属のふたり、リュアン・ヴェルナーとラケル・ルースの姿だった。わずかに速度を緩めたリュアンにほっと息をつき、追走するラケルは鋭く道の奥を睨む。

(セシリー……一体何があったの? お願いだから彼女を守ってよ、リルル……!)



 ――つい数時間前のこと、任務返りのラケルが厩舎(きゅうしゃ)で馬に水を与えていると、新米騎士の双子の片割れ、ティビーが血相を変えて話しかけてきた。
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